イタリア発のバイクメーカー・ファンティックのキャバレロ スクランブラーシリーズには125cc、500cc(250ccモデルはカタログ落ち)がラインナップしており、2024年にはさらに689ccのパラレルツインエンジンを搭載したキャバレロ スクランブラー700がファミリーに加わった。しかもそのエンジンはヤマハから提供を受けているCP2エンジンだというのだが、一体どんな乗り味なのだろうか?
試乗・文:谷田貝 洋暁
そもそもファンティックのキャバレロ スクランブラーシリーズってどんなバイク!?
“スクランブラー”とは、まだロードバイクとオフロードバイクの境目が曖昧だったモトクロス黎明期のスクランブルレースに出場するために作られたレーサーのことだ。ロードバイクをベースに大径ホイール&ロングストロークサスペンション、サイド回しのエキゾーストパイプなどのカスタムを施してオフロード適性をアップ。そんなマシンを“スクランブラー”と呼んだ……のだが、現代のバイクにおける“スクランブラー”というジャンルの定義はやや曖昧だ。
性能的にオフロード走行を想定していようと、してなかろうと“ビンテージオフロードっぽい車両”は全て“スクランブラー”と呼ばれる。実際、ラインナップを見回すと、“スクランブラー”なのはあくまでスタイルだけで、中身のオフロード性能が伴ってないモデルが圧倒的に多い。
そんなファッションとしてのカタチだけの“スクランブラー”ばかりが目立つ現在にあって、ファンティックのキャバレロ スクランブラーシリーズだけは別なのだ。“スクランブラー”ならではのスタイリングであるビンテージオフロードっぽさを大切にしながらも、しっかりとしたオフロード性能が追求されている。それがファンティックのキャバレロ スクランブラーシリーズのアイデンティティなのだ。
そんなキャバレロ スクランブラーシリーズに689ccパラレルツインエンジンを搭載したモデルが新たに加わった。その名もキャバレロ スクランブラー700。なんとヤマハからエンジン提供を受けており、テネレ700やMT-07と同じCP2と名付けられた270度クランクのパラレルツイン(689cm³)を積んでいる。
<SPEC>
●全長/全幅/全高:2,164mm/890mm/1,136mm
●車両重量:185kg
●ホイールベース:1,453mm
●シート高:830mm
●エンジン型式:水冷4サイクル2気筒DOHC4バルブ
●総排気量:689cm³
●圧縮比:11.5
●ボア×ストローク:80×68.6mm
●最高出力:N.A.
●最大トルク:N.A.
●2次減速比:45/16
●燃料タンク容量:13.5ℓ(リザーブ:2.5ℓ/ハイオク指定)
●ブレーキ形式:前φ330mmディスク、後φ245mmディスク
●タイヤサイズ(前/後):110/80-19 /150/70-17
●ボディカラー:レッド、ブルー
●価格:1,750,000円(税込)
ファンティックのキャバレロ・スクランブラー700の足着きチェック!
シート高は830mm。アドベンチャーバイクと違ってしっかりシート高がしっかり低めに作られているのが“スクランブラー”系モデルの特徴。ファンティックのキャバレロ スクランブラー700も830mmとしっかりとシートは低く、サスストロークも前後150mmとオフロード系のモデルとしてはやや短めに設定。おかげで両足の踵がわずかに浮くくらいの良足着き性を確保。“アドベンチャーバイクはちょっと難しそうだけど……”という方は、ぜひこのキャバレロ スクランブラー700にまたがってみてほしい。上半身のポジションはやや前傾する程度のアップライトなポジションで、膝の曲がりにも窮屈さはなく長時間の運転も楽そうである。
どこまでも遠くへ走っていけそうなキャバレロ スクランブラー700
シリーズ最大排気量となるキャバレロ スクランブラー700。ハイライトとなるのは、やはりテネレ700やMT-07にも搭載されているCP2エンジンを積んでいることだろう。圧縮比やギヤ比などもそのままで全く同じとのこと。エンジンのフィーリングに関しては中低速域のパルス感が強調されたテネレ700というよりは、吹け上がりのいいMT-07のエンジンフィーリングに近い印象を受けた。
おかげでこのキャバレロ スクランブラー700は、まずロードセクションが面白い。筆者は500、250、125とキャバレロ スクランブラーシリーズ全てに乗ったことがあるが、ギヤ比がややショート気味なのが気になっていた。これはおそらくオフロードセクションでパンチの効いた走行フィーリングにするための工夫で欠点ではないのだが、ロードセクションではちょっとシフトチェンジが煩雑になるところもあった。
ところが今回のキャバレロ スクランブラー700では、689ccと排気量になりかなり余裕ができたことで、低いギヤから高いギヤかけての繋がりがものすごくいい。特にワインディングで多用する2速、3速あたりのギヤでしっかりとした押し出し感が味わえるとともに、スロットル操作に対する反応も伸びやかで気持ちがいいのだ。
車体にも変なオフロードバイク感がないのがいい。フロントタイヤは19インチでロードバイクとしては大きめだがワインティングでも変な不安定感はなく、しっかり肩からコーナーに飛び込んでいくようなロードスポーツバイク的な走りが可能。今回の試乗では、高速道路での巡航走行テストが行えていないが、十分高速道路を快適に走れそうなことは十分感じ取れた。
やはりキャバレロ! スクランブラー700はダートも得意!
ファンティックのキャバレロ スクランブラーシリーズの特徴は、なんといってもそのオフロード適性の高さにある。フロントホイール19インチ&リヤホイール17インチのキャラクターは125cc~700ccクラスまでシリーズを通して共通。どれを選んでもオフロード走行が楽しいモデルになっている。
キャバレロ スクランブラーシリーズに乗ってみて感じる共通のキャラクターは、お尻を振りやすいテールハッピーでスライドコントロールがしやすいということ。流石に125ccのスクランブラー125はエンジンパワー的にスロットル操作一つ……とはいかないが、そのほかの排気量であればパワースライドが簡単に楽しめるのだ。
というのも、このキャバレロ スクランブラーシリーズは、一般的なオフロードバイクとは違い、フレームもスイングアームも横方向の剛性がやや高めに設定されている。一般的なオフロードバイクでは車体がしなって路面に踏ん張り前へ進むところでも、車体剛性が高めなおかげでテールスライドが簡単に発生する。確かに単純な“速さ”で言えば、応力がかかったときにしっかり路面に踏ん張り、グリップするマシンの方が前に進んでタイムも縮められるだろう。
ただキャバレロ スクランブラーシリーズはそういうバイクじゃない。テールハッピーなキャラクターで、リヤタイヤをズリっと流したりして遊ぶのが楽しいバイクになっている。変に車体が踏ん張らずスロットルを開けたら、開けた分だけリヤが流れるのでテールスライドがコントローラブルなのだ。
新型のキャバレロ スクランブラー700も、もちろんそういうマシンになっている。しかも、排気量は689ccもあり、スロットルワーク一つでキャバレロ スクランブラーシリーズらしい大きなテールスライドが決まる。このパワーのおかげで、シリーズで一番パワースライドがしやすいバイクになっていると感じた。
……なんてことを書くと、玄人しか乗れないようなイメージを与えてしまいそうなので補足しておこう。加えて僕が感心したのは、舗装路用の走行モードである「ストリート」でのトラクションコントロールシステムの介入度。キャバレロ スクランブラーシリーズらしく、やや空転を許容してからシステムが介入するような設定になっている。この仕様ならオフロード初心者であっても、キャバレロ スクランブラーらしいテールスライド遊びのエッセンスが気軽に感じられるというわけである。
そこから走行モードを「オフロード」にすれば、トラクションコントロールシステムがオフになり、ABSの設定がオフロード用に遅くなり、さらに必要とあればボタン一つでABSのカットも可能。ブレーキターンからのスライドコントロールなんて遊びもできてしまうのだ。