自分のバイクをより乗りやすくしたい、見た目をカッコ良くしたい。憧れのマシンに近づけたい。
バイクを所有すると自然とそういう思いがでてくるもの。
パーツを一つ変えただけでも〝自分だけのスペシャル〟感がでて、愛着も一層湧く。
でも、いざカスタムしようにもどうしたらいいのか結構わからなかったりする。
そこで今回紹介するのはヨシムラが手がけるZ900RSのカスタムキット〝Z900RS/CAFE YOSHIMURA Heritage KIT AMA Edition〟を紹介することで、その変身する様子を見てみよう。
カスタムキットの利点
トータルでカスタムするキットというとややハードルは高いが、車両の完成度という面では抜群に高い。
そもそも、メーカーから販売されている車両はさまざまなシチュエーションやユーザーに合わせて、バランスのとれた性能となっている。
それをあまり知識がなくカスタムすると、かえって走りにくくなったり、パーツチョイスがチグハグで見た目に統一感のない車両になったりする。
Z900RS/CAFEに向けてヨシムラがリリースした注目のヘリテイジKITは、車両トータルで手がけられ非常に奥が深いカスタム車両だったのだ。
マシンをトータルで造りあげるコンストラクターという存在のヨシムラ
バイクに乗っている人で〝ヨシムラ〟という名前を聞いたことがない人はまずいないだろう。
「マフラーメーカーのヨシムラでしょ?」と思っている人は多いかもしれない。
確かにヨシムラはマフラーを作っているが、マフラーメーカーではなく『レーシングコンストラクター』なのだ。
直近のレースだと、2021年世界耐久選手権でシリーズチャンピオンを獲得している。
コンストラクター(constructor)
レースをするための車両を作る人、またはチームのこと。一般的に売られているバイクは、スピードだけでなく公道での乗り心地や扱いやすさを考えて作られているのに対して、レースを走るバイクというのは、速く走ることを目的としているため、ライダーの要望や最新技術を取り入れながら常にテストを繰り返し、問題点を修正し続けている。言い換えれば、コンストラクターとはレースに勝つためにバイクを設計、改造する人のことなのだ。
広義では、カスタムマシンを製作するメーカーや販売店に対しても用いられ、”ビルダー”ともいう。
出典:YAMAHA バイク用語辞典 (https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/yamaha-motor-life/bike-word/)
ヨシムラの歴史は1954年に吉村秀雄(POP吉村)が、九州の福岡県でヨシムラモータースを創業したことからスタートした。その後、関東進出や渡米するなど様々なエピソードと共にレース界で結果を残し、現在は神奈川県を拠点としている。
ヨシムラは速さを求めてマシンにチューニングを施し、その中で生まれたのがエンジンの高出力化を求めて生まれた『ハイカムシャフト』や、軽量化、排気効率を高めるために世界で初めてレースで使用された集合管『サイクロンマフラー』などは、そのチューニングパーツの代表格だ。
ヨシムラの歴史を遡れば、創業時は外国製のBSA(イギリス)やホンダCB72などのオートバイからレーシングカーまでをチューニングしていた。国産メーカーが大型バイクを発売していった時代、ホンダCB750FOUR、カワサキZ1、スズキGS1000などで海外レースに参戦して『レーシングコンストラクター』の地位を確立させてきた。
ヘリテイジKITの元となったKAWASAKI Z1
このヨシムラの歴史を語る上で外すことができないのが〝カワサキZ1〟だ。
現在のスーパーバイク世界選手権のルーツとなったのが1976年に始まったAMAスーパーバイク選手権。そこに参戦したのがヨシムラの手がけたZ1だったのだ。ライダーは当時学生だったウェス・クーリー。ヨシムラ初の契約ライダーで、彼がそのZ1を駆り、1977年AMAスーパーバイク選手権シリーズの最終戦リバーサイドで初勝利を挙げた。後に1978年の第1回鈴鹿8時間耐久レースでも、ヨシムラに優勝をもたらす事になる名ライダーだ。
このマシンをオマージュしたのがカワサキZ900RSをベースにした『Z900RS/CAFE YOSHIMURA Heritage KIT AMA Edition』、いわゆる〝ヘリテイジKIT〟なのである。
ヨシムラのこだわりを随所に感じるヘリテイジキットKIT
ヨシムラファンなら、このヘリテイジKITが発売される前にAMAカラーのZ900RSが2018年の東京モーターサイクルショーで展示されていたのを覚えているかもしれない。この時はサイクロンマフラーに合わせるためだけにAMAカラーに施されていたのだ。市販化の予定はないながらも、同グラフィックでキット化して欲しいというユーザーの声はあったそうだ。
その声にヨシムラのスタッフたちも動かされ、本格的に開発を始めたのが2020年の暮れに差し掛かった頃だったという。
熟練したスタッフが造るチタン製ストレートサイクロン
グラフィックのベースがあったとは言え、造るからには妥協しないのがヨシムラだ。
中でも、同KITで要となるヘリテイジKIT専用ストレートサイクロンは、このためだけにチタン仕様で作られているのだ。
先に製品化されていたオールステンレス仕様の機械曲ストレートサイクロン。ヘリテイジKIT専用ストレートサイクロンも基本的にはそれと同じレイアウトだが、素材が変わるため設計そのものも同じという訳にはいかない。
素材が変わるため各部の厚みが変わり、それに対応して熱への対策なども必要となるからだ。
開発には一定の時間を要し、熟練しているスタッフでなければ造れないものとなっている。
しかもブラック塗装されているので特別仕様のエンブレムを見なければ、チタンマフラーとはわからない贅沢な仕様なのだ。
チタンとなったことでマフラーの重量はSTDの12.0kgと比べたら半分以下の5.6kg! 見た目は鉄製ストレートサイクロンぽいけれども、片手で軽々と持ち上げられるその軽さにまず驚かされる。
この脅威的な軽量化により、コーナーでの切り返しではノーマルとは違う〝ヒラヒラ〟とした軽さを体感でき、運動性能も格段に引き上げられている。
より高いホールドを実現した専用ステップ
加えて注目したいのが〝ステップKIT X-TRED〟だ。
X-TREDはベビーフェイスとコラボしたステップで、高い精度と剛性、独自のヒールプレート形状により、街中でも走りが楽しくなる抜群の操作性を実現している。そのX-TREDをベースに通常版ではアルミ製だったヒールプレートをドライカーボンに変更し、さらに大型化した。アグレッシブに走るとステップを踏む足は状況に応じて、土踏まずだったり母指球(親指の付け根)と変化する。その踏み込む足の位置が変わっても、大型化したヒールプレートがマシンのホールド性をよりアップしてくれるのだ。
ブラックとレッドを基調にしたAMAカラーと細部のヨシムラロゴ
ヘリテイジKITのグラフィックと各部のカラーは、ヨシムラのマシンではお馴染みのブラックとレッドが基調となっている。
フューエルタンクとシートカウルのラインはAMAで活躍したZ1のグラフィックを再現。ビキニカウルは当時のZ1には付いていなかったため、今回のKITのために新規にデザインした。デザインがトータルで繋がりのあるようタンクに描かれているグラフィックに合わせ、カウルのホワイトのストライプの幅なども合わせられている。
ジェネレーターカバーやフレームキャップなどアルミ素材のものは、通常版ではスレートグレーのところ、ブラックやレッドでアルマイト処理され統一感を出している。
また、取り付けたら見えない部分ではあるがドライカーボンパーツの裏側や、エキパイを取り付けるフランジ部分に〝ヨシムラ〟と入っているのもファンの心をくすぐられる細かいポイントだ。
細心の注意を払いヨシムラのスタッフが取り付け
常に最善を尽くすヨシムラメカニックとしての在り方は、ヘリテイジKITの丁寧な組み付けにも現れていた。
取り付ければ目に見えないようなパーツの場所であっても傷が付きそうなところはあらかじめ保護し、細心の注意を払い丁寧かつ確実に組み付けていく。また取り外したノーマルパーツに関しても傷がつかないよう丁寧に梱包される。動作に無駄はなく、粛々と作業は進んでいった。
トータルでカスタムするから完成度は比類なき仕上がり!
かつてAMAスーパーバイク選手権で活躍したZ1を自らの手でオマージュした〝Z900RS/CAFE YOSHIMURA Heritage KIT AMA Edition〟
個人でさまざまなパーツを集め、当時のマシンをオマージュしたZ900RSを作ろうとしても、ここまでの統一感を出すのは難しいこと。ましてや、見た目だけでなく走りにもこだわるとなればなおさらだ。
とかく、ただパーツを取り付けるだけになりがちなカスタムだが、長く乗って楽しめる全てがちょうど良くバランスされた〝Z900RS/CAFE YOSHIMURA Heritage KIT AMA Edition〟は、まさにカスタムのお手本のような存在。このような車両を目指したいものだ。
Z900RS/CAFE YOSHIMURA Heritage KIT AMA Editionは4種類!
AMAカラーのフューエルタンクやシートカウルなどの外装パーツを中心としたSPEC1。
そのSPEC1にヘリテイジKIT専用のマフラーやプロテクターなどの機能パーツを追加したSPEC2がラインナップされる。
【定番モデル】SPEC1
AMAカラーフューエルタンク、シートカウル、サイドカバー、フロントフェンダーなどがセットになった定番モデル。
CAFEにはAMAカラーにデザインされた専用フロントカウルが付属する。
Z900RS (18-21) Yoshimura Heritage KIT SPEC1
Z900RS CAFE (18-21) Yoshimura Heritage KIT SPEC1
【限定50セット】SPEC2
SPEC1のキット内容に加えて、ヘリテイジKIT専用のマフラー、ステップキット、ラジエターコアプロテクター、エンジンケースガード パルサーカバー、ジェネレーターカバー、フレームキャップ、リアフェンダーがセットになっている。
フロントカウルレス仕様、フロントカウル付きCAFE仕様合わせて50セット限定。
Z900RS (18-20/21) Yoshimura Heritage KIT SPEC2
Z900RS CAFE (18-20/21) Yoshimura Heritage KIT SPEC2
写真&文:栗原 守睦