普段の通勤・通学からちょっとしたお買い物など、その機動性を活かして近所を走り回るには最適な125ccクラスだが、今回紹介するヤマハ・シグナス グリファスは一味違う。近場を快適に走れるのはもちろんのこと、実はお散歩以上、ツーリング未満くらいの中距離移動でも快適に走れるポイントが盛り沢山で、普段の日常使いから仕事終わりや休日のちょっとした空き時間まで、「ちょっとそこまで」走り出したくなる一台となっているのだ。
【YAMAHA / CYGNUS GRYPHUS : impression】
あいにくの曇り空でも気温は上がり、すっかり緩くなった空気を遠くから振動させているエアプレーン。大迫力の大型旅客機を目前に一息つける空港近くの公園は私のお気に入りのスポットだ。125ccのスクーターでは少し距離を感じるものの、大型バイクを出すほどの距離でもなく、ふと気が向いたらたまに来るくらいの場所だったのだが、そのくらいの距離でもシグナス グリファスと一緒ならお気に入りの格好で「ちょっとそこまで」来れてしまうから不思議だ。
125ccクラスでは大ぶりな車体と125kgという適度な車両重量は安定感があり、低燃費とスポーティな走りを両立した新型のBLUE COREエンジンは低速から粘り強いエンジンパワーを発揮してくれるので、走り出しからある程度速度が乗った巡航までをストレスなく楽しめる。
そして、この乗って楽しいと思える感覚こそがシグナス グリファス最大の魅力となっており、もはや利便性の高いコミューターという枠では収まらず、乗って楽しいファンバイクに仕上がっているのだ。
アグレッシブな見た目のフロントフェイスには二眼のLEDヘッドライトがレイアウトされており、カウルデザインに合わせてインポートされたウインカーユニットの仕上がりも美しい。テール周りについても流曲線を描きながら各所にエッジを効かせたデザインになっており、スポーティなテールランプが特徴的。
イメージカラーとなっているブルーイッシュグレーソリッド4(グレー)は都会的でクールな雰囲気を残しつつ、鮮やかなオレンジの差し色が入ることでスタイリッシュにまとまっている。 また、高密度クッション材を採用したフラットで幅広な新作のシートは長時間座っていても疲れにくく、シート下にはフルフェイスヘルメットを入れても余裕がある約28Lのトランクスペースを確保しているので、使用シーンが幅広く使い方が限られないのも嬉しい。
軽快なハンドリングを生み出す前後の足周りにはディスクブレーキを採用しており、ブレーキタッチについてもカッチリしていながら過敏過ぎず、あくまでジェントルな印象。
お気に入りのお店ほど自宅から微妙な距離にあるもの
歩行者が忙しなく行き交うアキバの路地をスイスイ走り抜けて向かった先は、お気に入りのケバブ屋。こんなご時世なのでちゃんとマスクをつけつつも、いつでも陽気な店主に元気をもらえる個人的パワースポットで、名物となるケバブの上にはフレッシュトマトやポテト、ピクルスが乗っており、辛口〜甘口までの辛さから選べるほか、ガーリックソースなどの珍しい変わりダネメニューも絶品。こういった路地裏にある店に車や大型バイクで入っていくのは結構億劫になってしまい、家から少し離れてしまうと小排気量クラスのバイクではなかなか来ずらく、お気に入りのお店ほど自宅から微妙な距離にあるものなのかもしれない。
しかし、こんな立地のお店にもシグナス グリファスなら「ちょっとそこまで」行ってみようと思えるのだ。
その理由としては、首都高の高架下をそこそこの速さで流れる昭和通りを車と同じ速度で走っていても非力さを感じることなく、地下道の上り坂や道幅の広いバイパスなどでもドカッと安定して走ることができるので、橋の上の強風や大型トラックが横に並んだりしても、極端にフラフラしてしまうことがないのは大きなポイント。また、歩行者の多い街中を走る際に、厚みのある排気音が主張し過ぎないボリューム感となっているので、存在感は出しつつも悪目立ちすることのない大人の乗り物となっているのもありがたい。
サウナ × シグナス グリファスで、バイクライフを「整える」
最近、サウナや岩盤浴で「整った」という表現を多く目にする機会が増えてきた。これは高温のサウナなどで新陳代謝を高め、たくさん汗を流して火照った身体を最後に水風呂で引き締めることによって、頭につき抜ける快感と共に自律神経の交感神経と副交感神経のバランスが取れた状態のこと。現在、老若男女問わず人気沸騰中のサウナを売りにしたスーパー銭湯や風呂屋も増えてきたことから、一般的な高温サウナの他にもサウナストーンにアロマ水をかけた水蒸気によって高温状態を作るロウリュウサウナ、サウナ後の専用ドリンクから水風呂の温度まで一貫した設備を売りにしたサウナ、開放的な雰囲気の中楽しめるサウナテントまで、探せば探すほどにバリエーションが豊かなサウナの虜になることだろう。しかし、規模感の大きな施設や昔ながらの銭湯をリノベーションしたサウナなども多く、駅やICから微妙に距離があったりすることも少なくない。そんな時もこのバイクと一緒なら、着替えもトランクスペースに入れられる上にガチガチのライディングウェアでなくても肩肘張らずに乗ることができるので、「ちょっとそこまで」気軽にサウナを楽しんでいくうちにバイクライフも整うはずだ。
スクーターをもっと身近に感じていたあの頃を思い出せる
三ナイ運動ど真ん中の埼玉県出身の私は、16歳の誕生日に学校をズル休みして原付免許を取得。50ccのスクーター遊びを経て、ビッグスクーターブームと共に青春を過ごした私にとってスクーターという存在は、通学に使っていた便利なコミューターでありながらも仲間とツーリングに行ったり、スクーターイベントに参加してみたり、初めてタンデムしたのもビッグスクーターというほど、かなり身近な存在だったのである。当時、夢中で読んでいたスクーター誌も今は懐かしく、スーパースポーツバイクの流行や新たな免許制度の改正などによって、時代の流れと共に50cc〜125ccの小排気量スクーターが主流となっている現在。今ではすっかり便利なコミューターとしての側面が強く、日常的な交通手段やセカンドバイクとして選ばれることが多いというのも事実かもしれない。しかし、今回シグナス グリファスに乗ってみて、スクーターの身近さ・手軽さ・扱いやすさを改めて実感することができた。クラッチ操作の必要なMT車のように入り口のハードルが高くない分、気軽に「乗ってみようかな」という気にさせてくれる。さらに、適度な大きさで所有感がありながらも大きすぎないコンパクトな車格はどこへでも行けてしまいそうな気がするので、一緒に走る時間が多くなるほどにバイクライフも色濃く残すことができるこのバイクは、個人的にはこれからバイクに乗ろうと思っているビギナーにとってもオススメできる一台となっている。
夢中でスクーターに乗っていた当時のことを思い出しながらお台場の夜景を眺めていると、すっかり涼しくなった夜風が不意に吹きつけた次の瞬間、そこには当時初めて見た都心の摩天楼が鮮烈に残るレインボーブリッジがなんだかさっきより輝いて見えた。