トライアンフの「TE-1」とは?
英国トライアンフは、「英国製電動モーターサイクルにおける新たな可能性の創出」をテーマとして2019年5月から取り組んできた、電動スポーツバイクのプロトタイプとなる「TE-1」のプロジェクトが、最終段階であるフェーズ4の実走テストを終えたことを発表。2022年7月12日に、その性能や航続距離、充電時間などの結果を公表した。
TE-1は、英国政府のゼロエミッション車局(OZEV)と研究資金助成機関のイノベートUKから資金提供を受けながら、各分野のスペシャリストが電動バイクの設計開発と技術統合に共同で取り組むプロジェクト。トライアンフが全体のまとめ役と車体設計を務めながら、バッテリー開発をウィリアムズ・アドバンスド・エンジニアリング、モーターとインバーターの開発をインテグラル・パワートレイン、コントロールユニットの開発や マーケティング調査などをウォーリック大学WMGが担当する、まさに英国の威信をかけたビッグプロジェクトだ。
2021年3月にはフェーズ2の完了が発表され、この段階でバッテリーとパワートレインのプロトタイプを公開。「重量わずか10kgのモーターで180馬力を発揮する」というそのスペックでも話題となった。そしてフェーズ3で、プロトタイプマシンが完成。2022年2月には、実車試験段階となるフェーズ4に移行して、6ヵ月間にわたりトライアンフの最先端施設でテストを実施することがアナウンスされていた。
177馬力の最高出力で、0-100km/h加速は3.7秒!
フェーズ3までの段階で、TE-1のスタイリングや車体構成、あるいはモーターの性能などが一部公表されていたが、フェーズ4の完了を受けてトライアンフは、より詳細なデータを発表。今回の注目ポイントはこの部分にある。
その中でまず、最高出力は「177馬力」、車重は「220kg」と発表された。参考までに、TE-1と同じ雰囲気を持つ(というよりTE-1がスタイリングモチーフとした)ガソリン車のスピードトリプル1200RSは、最高出力180馬力で車重は199kg。内燃機とモーターの走行性能を単純比較することはできないとはいえ、TE-1は1160cc水冷並列3気筒エンジンのスピードトリプル1200RSと同等の最高出力を誇っている。ちなみに、米国ハーレーダビッドソンがすでに市販している電動バイクのライブワイヤは102馬力/255kg。TE-1は圧倒的にハイパワーで、なおかつ軽い。なおトライアンフの発表によると、TE-1の0-100km/h加速は3.7秒。発進から時速100マイル(=約161km/h)までは約6.2秒で到達する。
電動バイクの可能性を広げる超高速充電!
電動バイクの普及には、社会全体における充電インフラの整備に加えて、車両の航続距離アップと充電時間の短縮が大きな課題となる。どんなに高性能な電動バイクでも、充電に多くの時間が必要で航続距離が短ければ、一般ユーザーに多く受け入れられるほどは普及しづらい。TE-1はその点において、今後の指標となるような充電時間の短縮化も実現している。
航続距離は100マイル(161km)と発表されていて、これはそれほどスゴい数値ではないが、急速充電による0-80%チャージはわずか20分に短縮化されている。わずか2~3分で満タンにできるガソリン車に乗っている我々からすると、20分という時間はたしかにまだ長いが、ライブワイヤーの0-80%急速充電が約40分であることを考えると、これは注目すべき“次世代性能”だ。
もちろん電子制御満載。微速モードや後退モードも!
電動に限らず、近年のモーターサイクルは電子制御技術によって大きく進化を遂げた。TE-1にも、これまでトライアンフが培ってきた電子制御技術が多数導入されている。まずライディングモードは4種類を用意。スロットルオープン時の過度なホイルスピンを抑制するトラクションコントロールシステムと、ウイリーを制御するリフトコントロールシステムも採用されている。ちなみにフェーズ4では、TOBCトライアンフレーシングチームのストリートトリプル765 RSを駆り2022年春のデイトナ200で2連覇を果たしたブランドン・パーシュ選手が、サーキットでTE-1をテストライディング。その走行シーンも公開され、パーシュ選手は豪快なウイリーも決めているが、これはリフトコントロールの介入を弱めた(もしくは解除した)状態だと思われる。
この他、電動モビリティとしては定番の回生ブレーキ、取り回しに役立つウォークモード(微速前進モード)やリバースモードも搭載されている。
今後の市販化と新たな展開にも期待
TE-1プロジェクトは、排ガス削減を掲げる英国の方針に沿いながら環境負荷が少ない乗り物を求める顧客ニーズに合った電動バイクを開発し、英国内のメーカーおよびサプライチェーンとの間で商業的に実行可能で持続可能かつ強固なパートナーシップを確立し、専門的な知識や技術を英国内で構築することで将来につながる雇用と人材を創出しながら英国の力を世界に示すことが、大きなテーマとなってきた。一方でトライアンフとしては、三角組織の最先端技術をまとめ上げつつ、次世代電動化戦略の指標となるような結果を残すことが重要な目標でもある。
フェーズ4を終了して発表されたスペックや、パーシュ選手によるデモンストレーション動画を見る限り、トライアンフとしての目標はある一定レベルの達成を得たように思える。となれば今後は、このプロジェクトをより現実的な商業レベルに落とし込むことを視野に入れることになるだろう。トライアンフの電動バイクが市販車として登場する日は、それほど遠くないかもしれない。