革新的な三輪バイクをはじめ、雪上車や水上バイクなど全地形対応車を製造するカナダの自動車メーカー、BRP(ボンバルディア・レクリエーショナル・プロダクツ)から、三輪バイクモデルの中でも軽快な走りとカスタマイズ製の高さに加え、手の出しやすい価格感という点でも人気を誇っているCan-Am RYKER(カンナム ライカー)。今回は同モデルでもより走りを楽しむことができるスポーツモデル、RYKER SPORT(ライカ―スポーツ)を走らせて実際にツーリングへ行ってきたのだが、一度走り出せば街中からワインディング、未舗装路までをも夢中で走ってしまうライカーの魅力を垣間見ることができた。
【BRP / Can-Am RYKER SPORT : impression】
オフィス街に轟く咆哮
どこも「CLOSE」の文字を掲げたショップが立ち並ぶオフィス街には未だ出勤する人もまばらで、どこか静けさを保ったオフィス街に甘美なエキゾーストが響き渡る。Can-Am RYKER SPORTに搭載された3気筒のRotax 900 ACEエンジンは、2気筒エンジンのようなトルクフルな吹け上がりと4気筒エンジンのスムーズかつ、どこまでも回っていくようなフィーリングを楽しむことができ、野生的ながらも官能的な排気音がたまらない。幅の広いハンドルを握りしめて街中を走らせていると、地面を這うようなローポジションなライディングスタイルに機敏なハンドリングを生み出すワイドトレッドな2つの前輪も合わせて、さらにコミックから飛び出したかのようにクールなヴィジュアルも手伝うことでまさに注目の的となる。路肩に停めてヘルメット脱ぐや否や、スーツをピシッと決めたサラリーマンの方にも興奮気味に話しかけられるほどで、他にも小学生の集団や信号待ちで並んだタクシーの運転手、ガソリンスタンドのスタッフからテラスでお茶をしている女子大生にまで熱い視線を送られる。こうした羨望の眼差しを向けられて嫌な気持ちはせず、むしろ所有感に繋がるポイントだと感じた。カッコ良いこのバイクに乗っているからこそ、ライダー自身もジェントルにカッコ良く走りたくなる魔力がある。
3輪バイクモデルでは兄貴分となるCan-Am Spyder F3と比べて、ひとまわりコンパクトにまとまった車体は取り回しやすく、オートマチックの変速機に加えて約100kg以上も軽くなった車体はストップ&ゴーが多い街中でもストレスが少ない。また、3輪トライクという構造上、2輪車のように信号待ちなどの停車時に足を地面につけてバイクを支えるという必要がないので足つき性などもほとんど関係なく、感覚的には4輪車のように老若男女問わずに誰でも乗れてしまうのも魅力的だ。通勤ラッシュ時間に近づき、徐々に人が増えていく街中を背に首都高のゲートを潜る。
心地良い春の潮風に誘われて
首都高へ上がったらレインボーブリッジを渡り、湾岸線からアクアラインへ流れるように走っていく。ベタっと地面に張り付くようなロー&ロングなポジションは直進安定性に優れており、高速道路の流れに乗った速度域でも安定した巡航が可能。二の足で踏ん張った前輪のおかげで横風に煽られることもほとんどなく、長距離旅をワンランク上へと快適にしてくれるクルーズコントロールまで搭載。オートマチック変速機に加えて、3輪のブレーキは右足のフットブレーキでまとめて操作でき、バイクのようなクラッチ・ブレーキ操作がいらない分、両腕はハンドリングに集中できる。高速域でのコーナーではF/RともにKYBのサスペンションがしなやかに反応するのと同時に、シャフトドライブの突き抜けるようなダイレクトなパワーに負けない粘り強さも実現。暖かさが心地良い春の潮風に誘われて、ぼんやりと遠くに霞んで見える山を目指して走っていく。
安定感とエキサイティングが絶妙にバランス
目視で確認できる前輪のラインを選びながら後輪ではしっかりと地面を蹴り出して、コーナー1つ1つをクリアしていく度に心拍数が上がっていく。トラクション(荷重によるタイヤの空転)だけでなく、スタビリティ(横滑り)コントロールや、もちろんABSなどの電子制御システムも搭載されているので、スロットルやブレーキを多少ラフに扱っても不安感は少ない。コーナーの先で路面が荒れていたり、急なギャップに乗ってしまってもバイクほどハンドルを取られたり、即転倒につながるような挙動をすることがないので、初めて走る道でもスポーツ走行を楽しみながらも安心してワインディングを駆け抜けられてしまうような絶妙なバランスは、走れば走るほど病みつきになってしまう。
ライカーに採用されているUFitシステムによって、ハンドル位置の前後に加えてステップの位置についても工具などは一切使わず、かなり手軽に変更することが可能。自分が乗れるようなバイクを選ぶのではなく、自分の好みや体格に合わせてライカーを調整できるので、フレンドリーなATミッションや電子制御を搭載したソフト面と3輪バイクであることやUFitシステムを採用しているハード面が揃うことによって、ライカーはこれまでのどんなバイクよりもライダーを選ばず、ライカーを愛す全ての人と楽しみを共有できる。
対応力の高さでバイクライフに花を添える
ひとしきりワインディングを楽しんだ後は、山を下って海沿いを散策。磯の香りが旅感を盛り上げる海沿いならではの細い小道や急な袋小路もなんのその、軽量コンパクトなライカーならどんな道だって好奇心のままに冒険することができる。そして、そんな小道の先に見つけたカフェにフラッと立ち寄るのも億劫にならず、旅先でのお店や人との出会いを積極的に楽しんでみようと思えるのも魅力の一つだ。停車時にはパーキングブレーキをかけるので急な斜面や坂道の停車も一切問題なく、メインの電子キーとは別にパーキングブレーキにも鍵をかけることができるので、セキュリティー面でも安心してバイクを離れることができる。こうした対応力の高さはライカーならではのバイクライフを充実させるポイントとなっていて、どんな日常にもスマートにひとつ花を添えてくれるはずだ。
カフェで一息ついた後は、もう少し海に近づけないか辺りを散策。こういう冒険心は大人になっても持っておきたいと思う反面、いつまでも子供のままだな〜と自分でも少し呆れるが、頼り甲斐のあるライカーだからこそ、子供のように全力で遊んでしまえるのだろう。スポーツモード・エコモードから選べる走行モードをスポーツに入れれば、スタックしやすい未舗装路や砂浜も難なく駆け出していける。多少後輪が滑り出してしまっても全然問題なく、ロー&ロングなポジションも手伝うことで制御しやすく、こちらからアクセルを開けていこうという気持ちにまでさせてくれる。
またもや心拍数の上がってしまった心臓を落ち着かせようと、ヘルメットのシールド上げて穏やかな波にキラキラしている水面を眺めていると、不意に南から吹く磯香る春風に早くも夏の始まりを告げられたような気がした。