昨今の世界的なビッグオフブームの立役者がBMW MotorradのGSシリーズであることは誰もが認めることでしょう。大排気量の4ストロークモデルでオフロードを楽しむという概念を世界で初めて現実のものとしたのは、1980年に登場したR 80 G/Sでした。BMW伝統のボクサーエンジンとシャフトドライブを専用設計の車体に搭載して、さらにストロークの豊かな前後サスペンションを備えたR 80 G/Sは、その後のパリ・ダカール・ラリーでも圧倒的な強さを見せて、BMW GSの名は瞬く間に世界に知られることとなりました。
R 80 G/Sはのちに80年代後半にR 100 GSへと進化して、現代のGSシリーズにも使用されるクロス・スポークホイール(チューブレスタイヤが履ける斬新なスポークホイール機構)やデュオレバー、堅牢な車体プロテクション、大容量燃料タンクなど現代のアドベンチャーバイクに必須の装備をすでに備えていました。その後、GSはR 1100 GS、R 1150 GS、R 1200 GSと空油冷ボクサーエンジンのまま時代に合わせて進化。2014年には空水冷ボクサーエンジンを搭載するまったくR 1200 GSが登場、近年では可変バルブタイミング機構のBMW ShiftCamを備えるR 1250 GSへとバトンタッチをして世界中のライダーに愛されてきました。
そして2023年、R 1300 GSが誕生しました。初代モデルから踏襲されてきたスチールチューブラーフレームはアルミダイキャスト製のフレームへと置き換えられ、ボクサーエンジンも完全に新設計となって排気量も拡大されました。この進化はこれまでのGSの歴史の中でも最大と呼べるものに違いありません。今回は先ほど開催された試乗会の模様をお届けしながらR 1300 GSの特徴についてご紹介します。
まったく新しくなったデザイン
ボクサーエンジンとシャフトドライブという象徴的な装備の進化はもちろん、デザインも大幅に進化したR 1300 GS。これまでのGSとの流れを感じさせながら、次の時代を見据えたデザインに生まれ変わりました。ヘッドライトはマトリックスLEDと呼ばれるフルLED仕様で、X型に配置されたライトユニットが最大の特徴です。
フロントフェンダーやサイドパネルの造形もGSらしさを受け継ぎながら、新しさを感じさせるもの。さらにシートはタンク上面まで伸びたようなデザインで、スタンディングやシッティングでのライダーの自由な動きをサポートしています。
軽くコンパクトになった車体
GSの原点に立ち返る、そんな開発テーマを掲げたR 1300 GSは軽量化と車体のコンパクト化を果たしました。なんと重量は従来モデル比で12kgもの軽量化を果たしています。アルミダイキャスト製の新しいフレームや、すべてを新設計したエンジンによって車体はギュッとコンパクトに。
進化の肝となるエンジン
初代モデルから進化を続けてきたボクサーエンジンは、今回完全な新設計となりました。トランスミッションをエンジン下部に置くことでエンジンの前後長を抑えつつマスの集中化を実現。このエンジンだけで3.9kgもの軽量化を果たしています。
気になるスペックは最高出力107kW(145hp)、最大トルク149Nmで、低速域と中速域以降でカムシャフトのプロファイルを変化させるBMW ShiftCam(シフトカム)機構も備えています。
サスペンションの進化がすごい!
GSシリーズが採用してきた独特のサスペンション機構のテレレバーとパラレバー。R 1300 GSからはEVOテレレバーとEVOパラレバーへと進化しました。もちろんBMWお得意の電子制御サスペンションDynamic ESAも刷新されています。なかでも、R 1300 GSツーリングに装備されるDSA(ダイナミック・サスペンション・アジャスト)は停車時と走行時に車高を自動で調整する機能を備えています。
これまで小柄なライダーにとってGSのようなアドベンチャーモデルは足つきや取り回しに難がありました。しかし、DSAを搭載するGSは停車時にはシート高820mmでタイトになったシート周りとも相まって、身長160cm台のライダーでもしっかりと両足が着地するのです。
このDSA走り出すと時速50kmを超えたあたりでシート高が850mmへと自動的にアップして、時速20km以下でシート高が820mmに下がるという仕組み。これまで小柄なライダーに向けてローシートの用意もありましたが、今回のDSAの登場によってローダウン仕様は廃止になりました。こうした進化にも関わらず、ドライブトレインでも6.5kgの軽量化を実現しています。
またがって感じた安心感、そして走りだした瞬間から感じた軽さ
ここまでR 1300 GSの大まかな特徴をご紹介しました。では実際の走りはどうなのでしょう。今回はR 1300 GSツーリングというモデルに試乗しました。初めて車体に跨ったとき、べったりと両足が地面に接地したことに驚きを隠せませんでした。筆者の身長は162cmで、これまでGSの大きさには特に停車時に苦労していましたが、跨った状態でホッとできたのはこれが初めて。前述のDSAによる恩恵はまさに自分のような小柄なライダーのためのもの! これまでその車体大きさや足つきでGSを敬遠してきたライダーにもR 1300 GSは優しいのです。
借り受けたR 1300 GSに乗って試乗会のベースとなる駐車場をスタート。公道へと向かう最初の曲がり角にさしかかった瞬間に再び驚きが。軽い! 車体を傾けるのではなく、ハンドルを切って曲がる状況でのフロントまわりの軽さ。ギュッとコンパクトになった車体と進化したEVOテレレバーの恩恵か、1300ccとは思えない軽快さなのです。
その後、市街地からワインディングへと繰り出してみたのですが、あらゆるコーナーで軽い切り返しができるので、ワインディングを走ることがとにかく楽しい。GSといえばオフロード!アドベンチャー!といったイメージですが、歴代GSモデルはオンロードでの気持ちの良い走りもその大きな魅力でした。今回のR 1300 GSでもその流れはしっかり引き継がれているどころか、これまで以上にオンロードの走りが心地よいのです。
BMW ShiftCamを搭載するボクサーエンジンは低速でもよく粘り、ひとたびスロットルを大きく開ければこれぞボクサー!と言わんばかりの力強い加速を見せてくれます。最高出力は145hpと、ライバルとなるアドベンチャーバイクの中では際立った数字ではありません。しかしBMWは最高出力という数字よりも、あくまでそのフィーリングに特化してエンジンを進化させています。今回の試乗は下道だけを150kmほど走りましたが、数字以上にエンジンの感触は乗り手を満足させるものでした。
自動で車高が変わるありがたさ
先にもご紹介しましたが、今回のR 1300 GSツーリングというモデルでは車高を自動的に変化させるDSA(ダイナミック・サスペンション・アジャスト)が装備されています。停車時や車速20km/h以下ではシート高が820mmに、走行中は850mmへとシート高が自動でアップするという世界初の機構です。かねてよりBMWはDynamicESA(ダイナミック・イーサ)という電子制御サスペンションシステムを長らく採用してきました。ソロやタンデム、荷物満載など、さまざまなシチュエーションやオンロードやオフロードなど路面状況に合わせてサスペンションの減衰特性を変化させるDynamicESA。今回初めて自動で車高を調整するDSAが装着されたことは大きな進化です。
小柄なライダーにとって、信号待ちや停車時、さらにUターンの際や林道での極低速の走行など、足がつかないことによる不安は相当に大きなものでした。これは体格に恵まれたライダーには決して理解してもらえない事実です。しかしDSAの装備によって、体格に恵まれないライダーが抱えていた不安は大きく解消されたのです。今回の試乗ではフラットな林道にも繰り出してみましたが、進化したABSとサスペンションによって乗り心地も良好。もちろん、足をついて慎重に進みたいような場面では、DSAのメリットを存分に感じつことができました。
「自動で車高が変わるってどんな乗り味なの?」と思う方もいると思いますが、実際に乗ってみるといつ車高が変化しているのかは、よっぽど注意していないとほぼ気が付かないレベル。筆者はどうしてもその変化を体感したくなり、試しに信号待ちからスタートする際に、右足を出したまま走り出してみました。スタート時は地面についていた足は、車速があがるに連れて徐々に地面から離れていき……そこでようやく車高の変化を実感することができました。逆にこうでもしないと筆者は気が付かないほど自然に車高は変化するのです。急にドン!と車高が上げ下げするのではなく、あくまでもスムーズかつジワジワと変化するのです。
GSがあるバイクライフを初めて想像できた
自分のように小柄のライダーにとって、これまでのGSはどこか遠い存在でした。世界中のライダーが認める走行性能や乗り心地はもちろん体感していましたが、やはり実用的な部分では足つきや大きさに少し引いていたことも事実。GSへの憧れをあるものの、GSを実際に所有する、という現実味を感じることができなかったのです。
しかし、今回のR 1300 GSに触れてみて、筆者としては初めて「GSがある生活」を想像することができました。R 1300 GSなら自分でも乗れる、扱える、そんな気になったのです。今回は小柄な筆者が感じたR 1300 GSの魅力についてご紹介しました。ここで記述したことを読者のみなさんはどう感じるでしょうか。ぜひともその進化ぶりを試乗して確かめてみてほしいものです。