自分ではバイクに乗れない身障者とタンデムして鈴鹿サーキットを走る
鈴鹿8時間耐久ロードレース決勝前日の土曜日。
先ほどまで予選の熱い闘いが繰り広げられていたコースに、2人乗りしたバイクの集団が現れた。
観客と手を振りあって走っているが、通常のタンデムとちょっと違う。ライダーとタンデマーがハーネスでつながれているのだ。
この集団は「風の会」といい、後席に乗っているのは自分ではバイクに乗ることができない身障者たち。彼らに純粋に「風」を感じてもらいたい。モータースポーツを、サーキットを楽しんでもらいたい。そんな願いが込められているパレード走行なのである。
発足のキッカケは、レジェンドライダー・水谷 勝さんの経験から
発足のキッカケは、「風の会」の代表を務める元スズキワークスライダー・水谷 勝さんの経験から。
「20年以上前ですが、あるイベントで車イスの身障者をタンデムシートに乗せたことがあるんです。そのときコーナーに入ると彼の動かないはずの足に力が入り腰をクックッと押してくるのを感じた。そのときにバイクがリハビリの一環になるのではと考えたんです」。
医療従事者や身障者と話をし、多くのバイクや用品メーカー、そして鈴鹿サーキットの協力のもと2001年の8耐決勝前日のタンデム走行が実現したのだ。
規模を縮小してではあるが、2022年の開催が決定
台風の直撃や、コロナ禍による鈴鹿8耐自体の中止などが続き、数年間「風の会」は活動することができなかった。しかし今年、関係各所の協力により規模を縮小してではあるが、2022年の開催が決定した。
これには身障者のみなさんをはじめ、水谷さんやスタッフ一同が喜んだ。
そして8月6日(土)、身障者をはじめ多くのライダーや医療従事者、ボランティアスタッフが集まった。
夕暮れ迫る鈴鹿サーキットの「風」を満喫!
激しい予選が終わり、静けさが戻ってきたサーキット。そこに西パドックからシビック・タイプRのセーフティーカーに先導された「風の会」がコースへと進入していく。
130Rにかかるあたりから、観客席にいる人たちから手やフラッグなどを振られる。ライダーもタンデマーも手を振り返す。心温まる瞬間だ。
鈴鹿サーキットを一周。忘れられない思い出に
コースを一周し、西パドックに戻ってくるとヘルメットを脱ぐ。みな満面の笑みを浮かべている。
「こんな機会はほかではできない。最高に良い思い出です」とタンデマーの一人は言う。
しかし本当にリハビリ効果があるのか。
その疑問に長年「風の会」に帯同している医学療法士の井坂先生は
「障害を持つ人には心と体の両方ケアが必要です。ついこもりがちな身障者さんがイベントのために外に出ることによって、気持ちを開放する効果が期待できる。またバイクの後ろは不安定です。そのため目で見て本能的にバランスを取ろうとする。下半身に神経がつながっていなくても気持ちが向くんです。それが良い影響を与えていると考えています」と答えてくれた。
「本人だけじゃなく、家族や同伴者の方々からも『今まで見たことがない気持ちよさそうな顔をして乗っていました。ありがとうございます』と感謝されます。風の会の活動でネガな言葉は聞いたことがない。聞こえてくるのは100%感謝と御礼なんです。この活動を続けない理由はありません」。
「何年か前、言葉がしゃべれず手足も動かせないという人を乗せたことがあるんです。パドックに戻ってきたときに、ちょっと片言の言葉を発して、動かなかった腕が動いた。それを見た親御さんが感動で泣いちゃって。こっちも思わずホロっときました」と長年ライダーを務めているプロライダーの方が言う。
身障者の心と身体のリハビリになれば、と20年以上に渡って活動している「風の会」だが、実は元気をもらっているのはこちらなのかも知れないと感じた。
<風の会 協力企業>
・日本二輪車普及安全協会
・鈴鹿サーキット(ホンダモビリティランド株式会社)
・株式会社ホンダモーターサイクルジャパン
・ヤマハ発動機販売株式会社
・株式会社スズキ二輪
・株式会社カワサキモータースジャパン
・MotorradMitsuoka鈴鹿
・株式会社アライヘルメット
・株式会社SHOEI
・株式会社オージーケーカブト
・株式会社カドヤ