大ヒット中のGB350用にSP忠男POWERBOXパイプが登場!
ホンダが2022年に発売した空冷単気筒モデルGB350は、発売されるや否や大ヒットを記録しています。
年々厳しくなる排出ガス規制を受けて、空冷単気筒のベストセラーモデルであるヤマハSR400が生産終了となるなかで登場したホンダGB350。シングルクレードルのフレームにフロント19インチ/リア18インチのホイール、さらにツインショックを組み合わせた車体構成は、モーターサイクルの基本形ともいうべきクラシックなもの。その主役となるのは、排気量348ccの空冷SOHC単気筒エンジンです。
この大ヒットモデルのエキゾーストシステムをマフラーメーカーのSP忠男が手がけるとどうなるのか? 今回はノーマルマフラーとの比較試乗を通じてGB350用POWERBOXパイプの実力をご紹介しましょう。
SP忠男独自のPOWERBOXシステム
国内でも指折りのマフラーメーカーとして知られるSP忠男ですが、今回GB350用に開発したPOWERBOXパイプは、純正のエキゾーストパイプだけをSP忠男製に置き換えるシステムです。
今回のGB350用のように、エキパイだけを交換するPOWERBOXシステムは、歴代のヤマハセロー250でも大ヒットを記録したSP忠男伝統のエキゾーストシステムです。パイプの曲げや太さはノーマルとは異なりますが、その肝となる構造は内部にあります。このPOWERBOXパイプでは、エキパイの内部に細いパイプを仕込むことで、GB350の単気筒フィーリングをより明確に打ち出すことに成功したといいます。
本来、SP忠男のPOWERBOXパイプはエキパイの外側に膨張室を設ける作りですが、今回のGB350では一部のセロー250用と同じく、外部に膨張室を持たない設計としています。どういうことかというと、エキパイ内部を二重管とすることでSP忠男の考える理想的なパワーとトルクカーブを実現しているそう。
ノーマルマフラーとSP忠男POWERBOXパイプに比較試乗!
まずはノーマルマフラーを味わう
今回は実際のフィーリングの違いを体感するべく、ノーマルマフラーとの比較試乗をおこないました。まずはノーマルのGB350の試乗から。実は筆者はGB350に乗るのはこれが初めて。以前は250ccの味わい系単気筒モデルに長らく乗っていたので単気筒エンジンの面白さは理解しているつもりです。
エンジンをかけるとアイドリングから元気な排気音が響きわたり、まずそこにびっくり!軽く暖気をして走り出してもその印象は変わりません。音量規制が厳しい現代に登場したとは思えないほど、GB350のサウンドは元気なのです。ただサウンド自体は全域でとても軽い印象で、もう少し低い音も欲しくなってしまいました。
そして加速する時の感覚としては、もう少しメリハリが欲しいと感じたのも事実。トルクの出方がずっとフラットまま回転が上昇しますが、そもそもGB350のエンジンは高回転向きではありません。ですから、このエンジンの性格の中でなのでメリハリのあるエキサイティングなフィーリングも欲しくなってしまいます。せっかく低速からトルクが出ている単気筒エンジンですから、ドコドコとしたその良さをもう少し味わってみたい! という印象です。もちろんこのまま乗るのもまったりしていて良いのですが、350ccのビッグシングルともなれば、マフラーひとつでキャラクターは激変しますからね。やっぱり期待はしてしまいます。
POWERBOXパイプ付きのGB350の試乗へ
ノーマルマフラーの試乗後にSP忠男浅草店のスタッフの方がノーマルのエキゾーストシステムをSP忠男製のPOWERBOXパイプへ交換してくれました。まずはその見た目! エキパイはひと回り太くなっているようにも見えます。試しにサイレンサーのジョイント部となる内径を定規で簡易計測してみると、POWERBOXパイプの方が直径で5mmほど大きくなっていました。また、シリンダーヘッドからサイレンサーまでのパイプの曲げは、とても凝った作りで3次元的な造形が楽しめます。
なんでもこのためにイチから金型を起こしたそうですから、開発には相当な気合が感じられます。バイクから離れて眺めて見ても、太く逞しいPOWERBOXパイプの存在感は抜群。でもGB350が持つクラシックな佇まいはそのまま。「あからさまなリプレイス感」がないのも好印象です。
アイドリングからまったく違うPOWERBOXのサウンド
POWERBOXパイプを装着したGB350を前にいよいよエンジンを始動。セルボタンを押して驚いたのは、吐き出されるサウンドの「質」の違いです。サイレンサーは同じなのにこんなに変わるものなのか!?というくらい違います。軽く、元気なサウンドを吐き出していたノーマルマフラーに比べて、POWERBOXパイプは音量が抑えられている印象で、その音質は低く湿ったもの。ノーマル状態でもそこそこの音量があり、そしてどちらかといえば軽薄だったサウンドが、装着によってしっとりと低音の効いた落ちついたサウンドへと変わっています。
いざ試乗へ繰り出すと、印象はまた大きく変わります。1速から2速、3速とシフトアップする際にスロットル操作に対して、エンジンがしっかりついてくる。ノーマルで物足りなさを感じていたのはそのメリハリの部分でした。ノーマルマフラーでもスロットルを開けてダダダダダ……と加速していくときにサウンドは大きくなるのですが、車速としてはあまり上がってこない。元々高回転までガンガンに回すエンジンではないのですが、少しダラっとした印象がありました。
しかしPOWERBOXパイプ装着車では、「これぞ単気筒エンジン」といわんばかりの元気の良さが伝わってきます。信号ダッシュで各ギアを引っ張ってみると、エンジンの回転上昇に合わせて車速がぐんと伸びていることをより強く体感できますし、より各ギアのつながりも滑らかになり、ストップ&ゴーの多い街中では乗りやすさが格段にアップ。ひょんなことでエンストする心配もないほどの信頼感もプラスされています。そして何よりノーマルサイレンサーにも関わらず、適度な重低音を響かせたパンチのある豪快なサウンドが楽しめるのです。正直に告白すると、エキパイがサウンドに与える影響がここまでだとは思ってもみませんでした。
POWERBOXパイプは、弾けるようなサウンドとトルク感を増した味付けによって、ノーマルマフラーでは少し分かりづらかった単気筒エンジンが持つキャラクターの輪郭がより分かりやすくなった、そんなフィーリングと言えるでしょう。
単気筒好きにとっては、ダラダラ走る気持ちよさも重要
POWERBOXパイプ付きのGB350に乗って小一時間ほど街中を徘徊してみたワタクシ。先ほども書きましたが以前は250ccの単気筒モデルを愛車としていた時期もありました。これまで単気筒モデルを所有された方ならお分かりになるかと思いますが、単気筒エンジンの面白さはダラダラと走る時にだって体感できるもの。むしろガンガンにぶん回すというよりも、その領域を楽しむ人も多いはず。ではその領域とは何か。
例えば、4速や5速へとシフトアップしていったときに、レッドゾーンまでスロットルを開け続けたりせず、ある程度のところでスロットルを戻してエンジン回転を落とし、そこからまた開け始める……要は「スロットルを開けては戻す」を繰り返すのです。その瞬間にライダーは何を楽しむのか。それは「湧き上がるように高まるトルク」と「サウンド」このふたつに尽きます。
SP忠男製のGB350用POWERBOXパイプに試乗できると聞いた時、まっさきに浮かんだのはこの「スロットルを開けては戻す」という動作をしたときにどんなフィーリングなのだろう?ということでした。というのもGB350のエンジンのボア×ストロークは70mm×90.5mmの超ロングストローク! 高回転域を多用するスポーツバイクではショートストロークのエンジンを設計するのが定石ですが、ロングストロークのエンジンは低回転トルク型で、豊かなトルクがもたらす味わいを楽しむためのエンジンキャラクターと言っても過言ではありません。それからすると、GB350のボアストロークはまさに「スロットルを開けては戻す」という走り方にピッタリのはず。
「気持ちイー!」の真骨頂は低回転域にあり
実際にPOWERBOXパイプを装着したGB350で「スロットルを開けては戻す」という走り方を試してみると……これがむちゃくちゃ気持ちがいい。
ギアを5速に入れて60km/hで巡航しているとき、わざとスロットルを戻してみます。本来はここでギアを4速に下げて加速しなおしても良いのですが、あえてそれをせずに5速のままスロットルを開けるのです。すると、ロングストロークの単気筒エンジン特有の「低速での粘り」を、これでもか!というほど体感することができるのです。エンジン回転が落ちているのにエンストしそうにもならず、そしてギクシャクもせず。スロットルを開ける右手の動きに応じてトルクがどんどん増し、適度に図太い排気音を奏でながら車速が上がっていくのです。そう、僕ら単気筒好きが求めるフィーリングってコレなんです。
GB350のメーター内で「ECOランプ」が点灯するアイドリング+αの回転数から、スロットルをじわじわと開ける右手に伝わってくるのは、重たいフライホイールがグルングルンと回りながらゆっくりとトルクを生み出して、適度に図太い排気音とともにトルクがどんどん分厚く積み重なってなっていく様子。あぁ、これこそがまさに単気筒エンジンの醍醐味……。もちろん、ノーマルのマフラーでもある程度は味わえるフィーリングですが、サウンドはもちろん、レスポンスまでも入念に煮詰められたPOWERBOXパイプを装着すると、その傾向がよりハッキリとライダーに伝わってくるのです。
こういう乗り方は、言ってしまえばギアチェンジをサボって、ただスロットルを開け閉めしているだけなのですが(笑)、その領域がすこぶる心地よいのです。ダダダダとスロットルを開けてひと休みしたあとに、またダダダダとスロットルを開ける、この繰り返しで走り続ける。回転が頭打ちになる領域を多用するのではなく、スロットルの開け始めから湧き出るトルクを右手でコントロールしながら、後輪が力強く地面を蹴る感触を味わう……。街中でも郊外でも、こういう走り方をする時にこそ、単気筒の面白さを全身で感じることができます。単気筒好きの筆者が今回のPOWERBOXパイプの試乗で一番「気持ちイー!」を実感したのは、実は何よりもこの領域でのフィーリングだったのでした。
スピードを求めるバイクではなく、クラシックな見た目と普段使いできる気軽さ、その中に単気筒エンジンの面白さを詰め込んだバイク。それがGB350です。マフラーを交換したからといってサーキットや峠に出かける必要もありません。いつもの道や郊外のツーリングルートで、もっと気持ち良く楽しむためには何が必要か? 徹底的な走り込みを開発の信条とするSP忠男、その看板に偽りナシ!
GB350用のPOWERBOXパイプには、単気筒好きのハートをグッと掴むフィーリングがしっかりと盛り込まれていたのでした。単気筒好きを自認するライダーはもちろん、「本当に?」と思ったライダーにこそ、ぜひ試乗して欲しいマフラーです。