みなさん「チェアリング」ってご存知ですか?
昨今日本でも少しづつ広まりつつあるアウトドアの楽しみ方の一種で、近所の公園や観光地など自然の多いところにお気に入りの椅子を持っていき、そこでゆったりとした時間を過ごすことでリフレッシュするというもの。
「椅子ひとつで世界はあなたのリビングルームに。
これは貴方と世界をもっと自由にするチルアウトのやり方です」
これは日本チェアリング協会が打ち出している標語です。「チルアウト」は音楽のジャンルの一つに用いられているのが有名ですよね。また、最近ではこの名前のリラクゼーションドリンクも発売されており、「くつろぎ」や「安らぎ」といった意味を持つ俗語として様々な分野で用いられています。
一般的には車で行くことが多いようなのですが、ここではもちろんバイクで楽しみたいと思います。チェアリングのスタートはまず、自分のお気に入りの椅子を探すところから、なのですが、ここではダートフリークから発売している「折りたたみチェアー」を使います。これを林道ツーリングに行く際に積んでいけば、林道で出会う絶景をみながら最高にくつろぐことができてしまうというワケです。
DIRTFREAK
折りたたみチェアー
¥3,300(税込)
さてこれでチェアツー(チェアリング・ツーリングの略)の準備は整いました。あとはどこでチェアリングをするかを決めるだけ。なんですが、実はずっと行ってみたかった場所があるんですよ。多分皆さん憧れてると思います。ヨーロッパって言うんですけどね。
「ヨーロッパでツーリングがしたい! ツーリングは無理でもせめて普通に旅行がしたい‼︎」
だけどコロナ禍が終わらず、とても気軽にそんなことができる世情ではありませんよね。
そこで思いついたのが、日本国内でヨーロッパを感じてしまう方法です。苦肉の策です。
中日本でツーリングをしている人たちの中では有名なスポットだと思いますが、「日本のチロル」と呼ばれている場所があるんです。そこは長野県飯田市にある下栗の里。別名「天空の里」とも呼ばれている、標高の高いところにある集落なんです。もう10年くらい前に一度だけツーリングで訪れたことがあり、ぜひ再訪したいと思っていたのです。
今回のバイクはCT125・ハンターカブ。せっかくくつろぎに来ているのにキビキビ走るオフロードバイクやバビュンと速いSSなんかじゃ疲れてしまうので、のんびりトコトコ、ゆっくりツーリングを楽しむには最適のバイクだと思います。
でも原付のため高速道路が使えないので、トランポを使って新東名高速道路の浜松浜北ICまで行き、そこで車を駐車場に入れました。そこからはバイクで、天竜川に沿って国道152号をひたすら北上。そうしてたどり着いたのがここ、遠山郷。南アルプスの雪解け水が豊富に流れ込み、その綺麗な水を生かして美味しいお蕎麦が食べられる里です。道の駅には温泉もありますね。
チェアーの積載に少し悩みましたが、ダートフリークのカントリーボックスを装着していたら、キャリアとの隙間にピッタリと収まり、ヒモ一本でしっかり固定することができましたよ。
遠山郷は山脈の間を流れる天竜川の周辺にできた谷の集落。その天竜川を渡って5分も走れば龍淵寺というお寺があり、その脇には観音霊水という湧き水があると聞き、まずはそこに向かいます。
そう。ただいい景色を見ながら椅子に座るだけでは満足できない僕はそこでコーヒーを飲んでしまおうというのです。
なんとこのお水、日本では珍しい硬水なんです。そうです。コンビニなどで売っている海外産のミネラルウォーターの多くが硬水であることからもわかる通り、ヨーロッパやアメリカの水道水は硬水が多いのです。ミネラルを多く含んだ硬水は独特の喉ごしで少しだけ苦味や渋味が感じられると言います。これがあれば、さらにヨーロッパ感が増すはず!
蛇口が3つ備え付けられていて、それぞれに「健康の水」「縁結びの水」「学問の水」と名前がついていましたが、水を汲みにきていた地元のおばさま曰く「まぁどれも同じ水なんだけどね」とのこと。そりゃそうですね。
東京から持ってきたペットボトルを用意して近づくと、軽トラックで大量のペットボトルを持ってきて汲んでいたおじさんが先を譲ってくれました。こういうところで人の温かみを感じるのもツーリングの醍醐味ですよね。しっかりお礼を言って一本分だけ先に入れさせてもらいます。
試しに一口だけ飲んでみると、うん、確かにちょっと硬い気がします! コンビニなどで「硬水」と銘打って売っている水は本当に硬くて、明らかに違うのですが、それほどではありませんでした。このくらいがちょうど飲みやすい気がします。
硬水はコーヒーの苦味を引き出すことから、ゆっくり時間をかけて一杯を味わいたい人に向いているとのことで、まさにチェアリングに最適! 僕はコーヒーは好きなんですが、普段飲むものにはそんなにこだわりはなく、これらの知識は以前に取材させていただいたコーヒーショップさんの受け売りなのですが…。
目的地のビューポイントはとても狭い場所なので、先にコーヒーの準備をしておきます。
持ってきたコーヒーの生豆を煎るところからスタート。ガチです。
デイトナ
アミカスクッカーコンボ
¥7,500(税込)
を使います。油断するとコーヒー豆が一瞬で消し炭になってしまうので、少し浮かせて網の中で豆を転がしてやり、満遍なく弱火に当てます。
するとだんだん色がついていき、香ばしい匂いが。
パチパチというポップコーンが弾けるような音が聞こえてきたら、だいぶイイ感じ。これを早めに切り上げれば浅煎り、ちょっと粘ると深煎りとなるワケなんですね。今回は硬水を使うため、一層苦味が引き立つように、けっこう深煎りにしてみました。
豆を引いて粉状にします。
この間に脇ではさっき汲んだ水を沸かしておきますよ。
そしてドリッパーに粉を移してここにさっき汲んだ水を入れていきます。
そして水が沸騰したのでいよいよドリップ開始!
もう匂いが辛抱たまりません。が、ここで飲んでしまってはいけません。入れたコーヒーを保温ボトルに入れてリュックに。
さぁ、下栗の里のビューポイントを目指して移動開始です。
ここが下栗の里。遠山郷の道の駅から直接くれば、大体25分くらいです。古い民家や畑の間を縫うようにどんどん標高が上がっていきます。こんな狭い道ですが、地元住民の方々もいますし、観光バスも走っていたりしますので、十分気をつけて走りましょう。急激に標高が上がるため、少し耳がキーンとしてきます。
里を登り切ったところに観光用の駐車場があります。ここでは名物のじゃがバターやソフトクリームをいただくことができるはずだったのですが、GW前の平日ということでお店はお休み。お腹を空かせたままビューポイントへ向かいます。地図によるとここから徒歩で20分程度のよう。
椅子を背負っていざ、出発!
途中からは山道です。「え、バイクで走りたい…」と思ってしまうのはもはやオフロードライダーのSagaですね。
というわけで到着しました! 下栗の里を見下ろすことができる絶景ビューポイントです!
これがヨーロッパか? と聞かれるとちょっと強引ではありますが、非日常かつ最高の景色であることには違いありません。風も気温も気持ちよかったです。
さっそく持ってきた椅子を展開して、レッツチェアリング!
これは…本当に癒されますね。いつもならそこら辺にある石とか切り株とかに座るところですが、もちろん寄りかかれるものもありませんし、ゴツゴツした感覚がお尻に違和感。しかもパンツも汚れてしまいますし、なんなら虫が登ってきたりします。
歩きにくいツーリングブーツを履いて山道を歩いてきたから少し足が疲れていたこともあって、椅子のありがたみがとても実感できました。
そうだ、コーヒー!
あー…最高だわー…。
なにも考えない時間、プライスレス…。
ピローン。
ん? アップルウォッチに何か通知が…。
はい、緊急のお仕事のメールでした。こんなところでもしっかり電波が入ってしまうが日本のいいところですね…。
絶景の中でお仕事するのもたまにはいいものですよ!
text&photo RIDE-HUCK
RIDE-HUCK掲載日:2022年7月5日