スズキのリッターネイキッド、GSX-S1000が初のモデルチェンジを受け、日本でも8月4日から販売中だ。同車のストリートファイタースタイルはどのように走る、曲がる、止まるという基本性能とスタイリング、付随する機能を磨き上げたか? 2輪ジャーナリスト・丸山 浩がレポートする。
リッタークラスの緊張感を和らげるインターフェイス
初のフルモデルチェンジを受けた、スズキGSX-S1000。まず目に入るのは当然、特徴的なそのデザインだ。従来モデルは全体的に丸みを帯び、どこか可愛らしさも感じる動物らしいデザイン(実際に豹がモチーフになっていた)のフェイスだった。だが、この新型では一変。直線とエッジを生かしたデザインとなり、六角モノフォーカスLED縦2灯のヘッドライトも相まって、ジェット戦闘機のようなスタイリング。しかもラジエーターシュラウドにはMotoGPでも必須のウイングレットもある。
さて、そんな新GSX-S1000にまたがると、身長168cmの私で両足とも親指の腹がしっかり接地する。シート高は810mm。形状や表皮を工夫したシートや、柔らかいが腰のあるサスペンションのおかげで良い安心感がある。ハンドルは前モデルに比べ、23mm幅を広げ、また20mmほどライダーに近づけたという ハンドルバーに手を伸ばすと、ほとんど前傾をしないままに手が届く。このポジションならリッターバイクに乗る緊張感が薄らぐし、山・街・高速と、どんなシチュエーションでも疲れず快適にライドできそうだ。
走り出す。高速道路のパーキングを出て、本線合流のためにスロットルを開ける。「おっ、優しい」。これが本当にGSX-S1000なのか。まるでGSX-S750に乗っているようなマイルドさじゃないか。そんな第一印象を抱いたが、はたと気付きフルLCDのメーターに目をやる。やっぱりだ。
この新GSX-S1000では新たに各種電子制御が加えられており、ドライブモードセレクターも備わった。このモードが、一番コンフォートなCモードになっていたのだ。これも良いが、やはり味わいたいのは最もアクティブなAモードなのだ。いろいろなシチュエーションに応じたベーシックのBモード、Aモードへと切り替えていく……。CとBは、ともにマイルドさを持ちつつ、CからBへ変えるとまるで650ccが750ccへというように、排気量が上がったような感覚。
そしてAモード。鋭いスロットルレスポンスと、むき出しのトルクが襲ってくる。そうそう、このゴリゴリ感! この感覚はまさにGSX-R1000K5のエンジンだ。GSX-S1000は元々、傑作と名高いK5エンジンをブラッシュアップして搭載している。高速でただスロットルを開けるだけでも、面白くないはずがない。久しぶりのK5エンジンフィーリングに高まった気分もそのままに、ちょっとしたワインディングへ向かう。登り坂でも3000rpm付近の低回転でぐいぐい引っ張っていくトルクは流石のひと言。
よし、最初のコーナーが見えてきた。じわっとフロントブレーキを握り込む。非常にマイルドなフィーリングだ。よくも、こんなソフトなタッチを作れるものだと感心してしまう。これこそが、まさしく乗りやすさというものだ。シフトチェンジは、上下両対応のクイックシフター搭載なので、ブレーキを握り込んだまま特に意識せずシフトペダルを踏み込んでいく。1回、2回……。山に快音が響く。高速道路でのシフトアップ時にも思ったが、このクイックシフターがとにかく気持ちいい! 現代バイクでもはや必須とも言えるこの装備、素晴らしいフィーリングに仕上がっているではないか。
旋回する。さすがはネイキッドバイクらしいポジション。身体の下でマシンがひらひらと軽快に動いてくれる。続く立ち上がりと切り返しはこいつのトルクの出番。トラクションコントロールのおかげで不安なく開けられ、このトルクだけですべてを操作していけるこの感じがたまらない。
ワインディングを抜け、小休止……。こいつはいいバイクだ。しなやかに動くフルアジャスタブルの前後サスに、マイルドなフィールで効くブレーキ。そして、アシスト化でより軽くなったクラッチに、マイルドさとシャープさを合わせ持ったエンジン。ふと、先ほどまでの走りを思い出し、“音”が聞きたくなった。キーをオンにし、ボタンひと押し。スズキイージースタートシステムのおかげで、何の不安もなく始動する。音量は抑えられつつ、GSX-R直系エンジンらしい野太い、官能的な排気サウンドが辺りを満たしていく。走行中はここにクイックシフターの気持ち良さも加わり、さらに官能的な音となる。
このように、GSX-S1000が新しくなった。となると、S750についても気になる。もしかすると、このS1000が750もカバーするのかとさえ思ったほどだ。それは、新型GSX-S1000がとても“いいとこ取り”の“ずるい”バイクだと、乗って分かったからだ。
ドライブモードセレクターによって、750ccクラスの使い勝手の良さも得る。しかも、1000ccのパワフルさも秘める。そんな、従来型S1000とS750の、まさにいいとこ取り。1台2役的、いや、3つのモードで3役こなせるなんて、本当にいい意味でのずるさも備えて仕上がった。新型GSX-S1000はそんなバイクなのだ。(丸山 浩)
スーパースポーツのDNAを磨いた2代目
新型GSX-S1000に対面した当初、そのデザインはロボットのようにも感じたのだが、それは、パイロット=ライダーが乗ることで完成するデザインということ。ドローンのような遠隔操作でなく、いつの時代もロボットには人が乗ってこそと思う。その上でスーパースポーツDNAは先代から磨き込まれている。
外観のなによりのアイキャッチは、今のスズキらしさを体現するように縦配置とした凸レンズ+LEDチップのモノフォーカスタイプヘッドランプ(ヘッドライトはステム側にマウントされる)。灯火類はフルLEDで、軽量コンパクトなフル液晶ディスプレイ多機能インストルメントパネル(ブルーバックライト)を採用し、豊富な情報を見やすくライダーに提供。表示する情報は速度/エンジン回転数/積算距離/トリップA・B/ギヤポジション/水温/燃料残量/航続可能距離/平均燃費/瞬間燃費/時刻/電圧。またSDMSモード/トラクションコントロールモード/クイックシフトON・OFF/エンジン回転警告/サービスリマインダー。両サイドにはLEDインジケーターも並ぶ。なおアルミテーパーハンドルバーは従来より23㎜幅を拡大、タンク容量は19Lだ。
エンジンはGSX-R1000K5がルーツ。φ73.4×59mmのボア×ストローク、998㏄の排気量といった諸元や、SCEMめっきシリンダー、フラットトップピストンを前期型GSX-S1000から継承しつつ、吸排気カム(バルブリフト量とオーバーラップ量を減らした)やクラッチ関連を新設計。2ps増の150psとした。インジェクターは前期型をそのままに電子制御スロットル化。右出し4-2-1のエキゾーストは従来型と同様の外観、#1-#4と#2-#3気筒を連接する構造を継続しながら、エキパイとエキゾーストチャンバー構造を変更。チャンバー内に2個目のキャタライザーを加えて、排気デバイスのSET(スズキエキゾーストチューニング)システムをサイレンサー直前に移動した。
シートは座りやすく車両をコンパクトに感じさせる。リヤシートの開閉はキー式。その下のスペースは小型レインウエアが入るくらいには確保され、ETC車載器もここに積むことになる。またリヤシート裏には積載用ループフックが2カ所収められて、タンデムステップホルダー部に設置されたフックとともに、工夫次第で大型バックの積載に使える。
ステップは高過ぎず低過ぎず、絶妙な位置にバーがセットされる。これならストリートからワインディングまで広く楽しむことが出来るし、新たに双方向クイックシフターも搭載されたことで、使いやすさにより磨きがかかっている。身長168cmの筆者は両足とも親指の腹がしっかり接地する足着き。
KYB製φ43㎜インナーチューブの倒立フロントフォーク(伸/圧減衰と初期荷重調整可能)、プログレッシブ特性のリンク帯プリヤサス(伸び減衰と初期荷重調整可能)、6本スポークの3.50-17/6.00-17サイズ・アルミホイールは前モデルから継続装備されるもの。タイヤはダンロップD214から同Roadsport2の専用設計品に代わった。ブレンボ製φ32㎜×4ピストンキャリパー/φ310㎜ディスクによるフロントブレーキまわりも継続、ABSも同様だ。
SPECIFICATION [SUZUKI GSX-S1000]
【SPECIFICATION】
型式:8BL-EK1AA●エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒998㏄/ボア×ストローク:φ73.4mm×59.0mm/圧縮比12.2:1/最高出力110kW(150PS)/11000rpm/最大トルク105N・m(10.7/kgf・m)/9250rpm/変速機6段リターン●全長×全幅×全高2115mm×810mm×1080mm/ホイールベース1460mm/車両重量214kg/タンク19L/シート高810mm/キャスター角25.0度/トレール100mm/タイヤサイズ120/70ZR17M/C(58W)・190/50ZR17M/C(73W)/価格143万円