新型スポーツスター「スポーツスターS」が先ごろ販売開始となり、スポーツスターでの楽しみ方そのものが変わった2021年。今回はハーレーダビッドソンが日本市場でもっとも多く販売した2004年〜2021年のスポーツスター、通称ラバーマウントにフォーカスし、バリエーション豊かな全22モデルのなかから注目したいスポーツスターTOP10をご紹介します。
ハーレーメディアの元編集長が語る極上モデル10選-スポーツスター編
10位 XL1200T スーパーロー
1200スポーツスターにウインドスクリーンとサドルバッグを付けて、タンデムでもツーリングが楽しめるように–––そんな願望をH-DカンパニーがそのままパッケージングしたのがこのXL1200T。2004年以降のラバーマウントスポーツスターは それ以前(〜2003年)のリジッドスポーツよりも重量がアップしてクルーザー色を強めていたので、ツーリングバイクとしてやりきるという発想は出てくるかも、と思っていたら本当に出してきた。そんなモデルです。
ツーリング向けのオプションパーツだったウインドスクリーンとサドルケースが標準装備となり、1,202ccエボリューションエンジンのマシンには12.5リットルのビッグタンクと大きなダブルシートが備わります。そしてタイヤはフロント17/リア16インチと、スポーツスターらしからぬサイズながらタイヤバリエーションの多い規格と、旅を楽しむことをめいっぱい考え抜かれた設計に。「ダイナやソフテイルにも憧れるけど、スポーツスターのサイズ感がちょうど良くて、北海道や九州へ走りに行きたい」。スポーツスターにそんなイメージを抱いている人にぴったりな一台です。
9位 XR1200(XR1200X)
ワインディングやサーキットでスポーツスターをぶん回したい、そんな遊び方を所望される方にぴったりなのがこのXR1200/XR1200X。ハーレーのレーシングスピリットの権化たるビューエルの系譜を受け継ぐモデルと言える存在で、ボディサイズがややマッシブで175cm未満の人だと”乗っている”というより”乗っかっている”風になってしまいますが、前後17インチホイールに倒立式フロントフォーク、リザーバー付きリアサスペンション、バックステップが標準装備という、ハーレーでありながらハーレーらしからぬスポーツバイクです。
従来のスポーツスターだと、エンジン右側に備わっているエアクリーナーがタンク一体型という独特のシルエットで形成されており、そのエンジンもラバーマウントとは比較にならない性能を引き出した仕様に。他のスポーツスターの写真と見比べてもらえればと思いますが、スイングアームの太さがまるで別物。ニーグリップはしづらいしシート下のサイドカバーは相変わらず出っ張っていてフットポジションが落ち着きにくいですが、エンジンチューニングや軽量化、フットワークの強化など走り系カスタムをしてやれば、なかなかにぶっ飛んだ一台が出来上がること間違いなしです。
8位 XL1200V セブンティーツー
セブンティーツーの名にある通り、1970年代アメリカで大きなムーブメントとなったチョッパーカスタムを再現したファクトリーカスタムモデルです。うず高く持ち上がったエイプハンガーにコンパクトさが際立つピーナッツタンクとそら豆シート、チョップドフェンダー(前後)、21インチのフロントスポークホイール、フルメッキの1,202ccエボリューションエンジン、ホワイトリボンタイヤなどなど……情報量が多すぎて「十分分かりました」と唸らされるチョッパースポーツです。
エイプハンガーにフォワードコントロールステップ、そして走行時に後ろに流れる体をまるで受け止めてくれないそら豆シートと、その乗り心地はお世辞にも良いとは言えません。両腕が高く持ち上がって両足が前に投げ出されているので、踏ん張れというのがどだい無理な話で、エイプハンガーの名の通りハンドルにしがみつく猿の如く、乗り心地の悪さに耐えながら走らねばなりません。ハンドリングやバンクといったライディングを語る以前の仕様です。
そんな乗り心地悪しなバイクがトップ10入りしている理由、それはこの一台に100年以上の歴史を持つハーレーのカルチャーの一部「チョッパー」の精神が宿っているから。乗り心地の良いバイクを求めるなら、ハーレーでなく別メーカーのバイクを選べば良いだけのことで、それでもハーレーダビッドソンを選ぶ理由には、ハーレーのカルチャーや生き様に対するリスペクトからだと思います。ツインカムモデルで言えばワイドグライドに通じる部分ですが、アメリカ人によるアメリカ人のために生み出されたハーレーダビッドソンに小柄な日本人が乗ろうというわけですから、痩せ我慢せねばなりません。
そう、ハーレーダビッドソンは痩せ我慢をしながら乗るバイクです。それを教えてくれる稀有なモデルのひとつがこのセブンティーツーなのです。
7位 XL1200R ロードスター
2004年、ラバーマウント仕様となった初年度からラインナップを飾っていたXL1200R ロードスター。2007年まではXL883Rなどと同じ12リットルのスポーツスタータンクで、2008年から17リットルの大容量フューエルタンクに変更。それ以外はほとんど仕様変更がなく、フロント19/リア16インチにダブルディスクブレーキ、オーソドックスなハンドルバーに同じサイズで並ぶスピード&タコメーター、そしてXL883Rに先んじてシート高が高く持ち上がったポジションと、初期ラバーマウントでスポーツライドを楽しもうというH-Dカンパニーの想いが投影された、そんな一台です。
2004年から2006年までがキャブレター仕様で、2007年以降はインジェクション仕様になったXL1200R。260kgある車重を可能な限り軽量化してスポーツバイクに仕上げようというスピード系カスタムショップが「オークションでキャブレター仕様のXL1200Rが出たら即決で抑える」というレアモデル。足つきを優先したローダウンモデルを探している方には不向きかもしれませんが、「カカトが浮く程度なら許容範囲」と言える方には是非このXL1200Rをオススメしたいです。後述のXL883Rとは違った、リッターバイクとしての馬力を味わえるモデルです。
6位 XL883N アイアン883
近年のラインナップで「もっともスポーツスターらしいスポーツスター」として人気を集めるアイアン883。後述のザ・スタンダード XL883から受け継いだオーソドックスなシルエットを持ちつつ、万人に優しいローダウン仕様で現代の流行でもあるブラックアウトしたボディが大きな見どころ。
ハーレー特有のアメリカンな薫りを漂わせつつ、クルーザーとスポーツバイクの二面性を併せ持つアイアン883。ストリートバイクからチョッパー、フリスコ(米サンフランシスコで人気のストリートチョッパー)、クルーザー、レーサーなど、シンプルゆえにあらゆるカスタムバリエーションを許容できるのも大きな魅力です。セブンティーツーやフォーティーエイトのような色濃さがないからこその乗り心地の良さも。そのまま乗っても十分楽しく、また自分色にカスタムしていく面白さも持つ一台です。
5位 XL1200X フォーティーエイト
今やスポーツスターのみならず、ハーレーダビッドソンのラインナップにおいてもフラッグシップモデルと呼んで差し支えない存在感を放つフォーティーエイト。2015年にフロントフォークの大径化(41mm→47mm)とスポークからキャストへのホイールチェンジ、ボディグラフィックの一新などバージョンアップを果たしましたが、2010年のデビュー以来不動の人気を誇るモデルとして君臨し続けています。
前後16インチホイール & ファットタイヤにミニマムなピーナッツタンク、ロー&ロングなスタイリングは1950年代アメリカで人気のレーサースタイルだったボバーそのもの。セブンティーツーと並んで”乗りにくいスポーツスター”の代表格ですが、その乗りにくさをも許容してしまえる圧倒的なスタイリングと雰囲気がこのフォーティーエイトには備わっています。1,202ccもあるのにピーナッツタンクだからロングツーリングは給油の連続だし、両足を投げ出すフォワードコントロールだからハイウェイ走行では体がどんどん後ろへ流されていくけど、そんなことすら「ハーレーだから」と言ってのけることができるフォーティーエイト。「行儀の良いバイクライフなんざ求めちゃいない」、そんな貴方にこそぴったりの一台です。
4位 XL1200C 1200カスタム
「XL1200C(カスタム)」のモデルコードを持ったスポーツスターは2タイプ存在します。2005年から2010年までの前期タイプは、フルメッキ仕様のパーツ群に21インチスポークホイール、フォワードコントロールステップと XL1200V セブンティーツーを彷彿させるスタイルで、2011年から2020年までの後期モデルは フルメッキエンジンなど一部共通点を持ちながら 前後16インチスポークホイール & ファットタイヤと こちらはフォーティーエイトを思わせるスタイリング。今回は後期モデルについてご説明します。
フォーティーエイトのフットワークが移植された後発感が拭えない1200Cが、このトップ10ランキングでフォーティーエイトを上回っている理由–––それは圧倒的な乗り心地の良さです。フォーティーエイトと違って、この1200カスタムは真下に向かって踏ん張れるミッドコントロールステップ仕様で、ホイールもキャストより軽量なスポークホイールに。
「フォーティーエイトだって、しっかり踏ん張れるミッドコントロールステップなら乗り心地は改善できるんじゃないか」、そんな想いを実証してくれたのがこの1200カスタムで、排気量1,202ccエンジンを積んでいながら、低重心と絶妙な重量感でコーナリングではしっかりバンクさせてくれ、期待以上の動きで気持ちよくカーブをクリアしてくれるのです。ハンドルとシートポジションも実はなかなかにニュートラルで、リッタークルーザーでも十分スポーツライドを楽しめるのだと教えてくれる存在だと言えます。
車高が高いバイクがスポーツライドに優れているのは当然ながら、ローダウンモデルでもきちんと操作入力してやればオートバイとして 必要にして十分な乗り心地を与えてくれる。これで容量17リットルのビッグタンクが備わっているのだから、ロングツーリングまで楽しめちゃうんです。試乗する機会があれば是非乗ってみてください、きっとフォーティーエイトにはない魅力を味わえること間違いなしです。
3位 XL1200CX ロードスター
ラバーマウントスポーツスターのひとつの壁を破った、そんなモデルだと言えますこのXL1200CX ロードスターは。前述のXL1200Rからの系譜とも言えるモデルで、ラバーマウントで唯一のフロント19/リア18インチというホイールを持つスポーツバイクです。倒立フロントフォークにダブルブレーキ仕様、そして排気量1,202ccのエボリューションエンジンも従来のそれよりもさらに性能を引き出すセッティングに。カフェレーサーを思い起こさせるガンファイターシートがマシンの雰囲気を高めてくれています。
シート高も高く、主戦場は間違いなくワインディングやサーキット。峠を攻めていたらミッドコントロールステップに備わるバンクセンサーは瞬く間に削れて無くなってしまいます。カフェレーサーを意識したのか、バーハンドルながら両サイドが垂れ下がった設計なので、ハンドリングがやや独特ではありますが、それこそ教習所(ライディングスクール)で習った操作法をきちんと入力しれやれば、他メーカーのスポーツバイクには性能的にやや劣るものの、小気味良くカーブをクリアしていけます。
インジェクションチューニングして、ホイールから何から軽量化して前後サスペンションもグレードアップさせて––––そんな妄想カスタムが止まらなくなるような、ライダーをワクワクさせてくれる一台です。
2位 XL883R
「パパサンアール」とも呼ばれるトラッカースタイルのスポーツスターがこのXL883Rです。かつてハーレーダビッドソンがアメリカのダートトラックレースでトップに君臨し続けたレーサー XR750 のオマージュモデルで、エボリューションスポーツスター時代の2002年に登場し、そこから2015年まで17年にわたって高い人気を得ていました。ハーレーダビッドソンジャパンがメディアに貸し出している広報車と呼ばれる試乗・撮影用バイクがあるのですが、毎年最長の走行距離になるのがこのXL883Rで、翌年この広報車が下取りに出される際、必ずメディア関係者から「買いたい」と声があがるほど。国内外のさまざまなバイクを試乗している経験豊富なバイクメディアの心をグッと掴む魅力を秘めたモデルだと言えます。
シート高はXL1200CXやXL1200Rらロードスター勢と同じく高めで、アップリフトされた幅広のハンドルバーとミッドコントロールから成るニュートラルなポジションになっています。ポリッシュのキャストホイールとダブルディスク化したフロントブレーキ、スポーツスターらしい流麗なシルエットとラウンド型スピードメーターと、「分かってるなあ」と唸らされるディテールから形成された一台です。
883ccという排気量なので、スタイリング的には街乗りも楽しめつつ、ツーリングに出かけても過不足ない乗り心地を味わわせてくれます。前後サスペンションのストロークがしっかり保たれているので、旅先の悪路も難なく乗り越えてくれる逞しさも併せ持つXL883R。マフラー、サスペンション、そしてインジェクションチューニング……走り系にカスタムすればさらにその能力を引き出せること間違いありません。
1位 XL883
1位は「ザ・スタンダード」XL883です。近年のラインナップを知る方はあまりご存知ないかもしれませんが、NやC、L、Rなど車両コードの末尾に何もつかない無垢なスポーツスターが2004年から2009年まで存在しました。いわばスポーツスターを名乗る全モデルの原点とも言える存在です。ちなみに2009年のラインナップではスポーツスターだけで10モデルが並び、しかもこのXL883が文字通り883,000円という破格の値段で販売されていたのです。思い返せばハーレーバブル絶頂期でした。
今スタンダード扱いされているXL883N アイアン883よりも車高が高く、エンジンや各ディテールはポリッシュ仕上げで、デザインもシンプルな一色もの。その無垢さから フォーティーエイトやパパサンアールなどと比べるとキャラクターが薄く見えますが、カスタムカルチャーを育んできたハーレーダビッドソンの長い歴史から見ると必要不可欠なモデルでもあります。すでにキャラ付けされたモデルではなく、真っ白なキャンバスに自分の好みを付与し、特別な一台にしていく–––。XL883にはそんなハーレーダビッドソンの醍醐味が詰められているのです。
手がつけられていないザ・スタンダードの中古車に遭遇できる確率は極めて低いことでしょう。それでも、マフラーやシートが変わっている程度なら手の加えようはいくらでもありますし、走行距離やそれまでの保管状況、駆動部分のコンディションなどがアベレージ以上に保たれていたら、その車両はまさに掘り出し物。自分で見つけたら秒で購入するかもしれません。
まとめ
今回は2004年以降のラバーマウントスポーツスターに絞ってご紹介させていただきました。それ以前のエボリューションスポーツスターなら、間違いなくXL1200Sなどがランクインするのですが、エボスポはラバーマウントと比べて輸入台数が多くないので、いずれのモデルも文字通りレアキャラ化しています。近年ではアメリカから並行輸入するバイクショップも少なくないので、エボスポを検討したい方向けの10選もまた機会を設けてまとめられればと思います。