現代のオフロードバイクへと進化を遂げようとしていたのがスクランブラーカスタムとすると、今回ご紹介するフラットトラッカーは特定のレース専用に生み出されたレーシングマシンのDNAを受け継ぐスタイルのバイクです。熱狂的なファンに支えられるスタイルの魅力と特徴を解説します。
フラットトラッカーカスタム
フラットトラッカーとは
フラットトラッカーとは、未舗装の周回路(左回りのトラック)で実施されるモーターサイクル競技のことで、ダートトラックレースとも呼ばれます。ヨーロッパやアメリカで流行した草レースが競技化したもので、直線コース2本を有する楕円形のオーバルコースで行われます。日本ではあまり馴染みのない競技ですが、アメリカでは全米モーターサイクル連盟(AMA)がアメリカ全土でレース展開するなど 大々的に実施されており、また人気も非常に高い競技です。ケニー・ロバーツやニッキー・ヘイデンといった 近年のロードレース選手権やMotoGPを席巻した名ライダーもこのフラットトラックレースで実績を積み重ねました。
フラットトラックレースで大きな実績を持つのがハーレーダビッドソンだということは、日本ではあまり知られていません。もしかしたら見られたことがあるかもしれないハーレーダビッドソンの「ナンバーワン エンブレム」(上記写真のフロントプレートのエンブレム)は、このフラットトラックレースでチャンピオンであり続けた証として描かれたものなのです。この写真のマシンはXR750というハーレーオリジナルのレーサーで、1970年代よりフラットトラックレースであらゆるライバルを差し置いて頂点に君臨したバイクとして知られています。「重い、遅い、曲がらない」と言われるハーレーダビッドソンですが、実はその歴史にはレーシングスピリッツが脈々と受け継がれているのです。
フラットトラッカーカスタムの特徴
それでは、フラットトラッカーを象るディテールをご紹介します。
トラッカーバー
支柱の有無はお好みですが、ハンドリングを快適にしてくれるワイドなハンドルバーは必須項目。スクランブラーカスタムにも通じるオフロードバイクらしさを高めるポイントですね。
シャープなシートカウル
似て非なるカスタムスタイル「スクランブラー」との差別化とも言えるディテールがこのシートカウル。直線のラインが美しいシャープなシルエットこそフラットトラッカーのリアエンドと言えます。
スポークホイール & ブロックタイヤ
キャストホイールのフラットトラッカーもありますが、より”らしさ”を演出するならクラシックバイク必須のスポークホイールをチョイスしたいところ。ブロックタイヤについては、近年ロードバイクとしてのグリップ力も併せ持った良いとこ取りタイヤがありますが、いずれにしてもタイヤパターンはブロック型にしましょう。
股下マフラー
スクランブラーカスタムでも見る股下マフラーもフラットトラッカーらしさを高める重要な部位。元々はネイキッドバイクでダートを走った際にマフラーが傷ついてしまうことから、この位置まで持ち上げたことが由来となっています。一気に雰囲気が高まること間違いなし。
フラットトラッカー向きなバイク
それでは、フラットトラッカーカスタムに向いているバイクをご紹介していきましょう。
ハーレーダビッドソン・スポーツスター XL883R
フラットトラッカーにふさわしいベースモデルと言われたらいの一番に挙げられるのが、この通称パパサンアールことXL883Rです。それも2004年以降生産のラバーマウント型よりは、2003年まで製造されたリジッドスポーツ版XL883Rがよりイメージに近いと言えます。
ご覧のとおり、ハーレーダビッドソンの歴史の1ページを担った名車XR750をインスパイアした市販車で、カラーリングからグラフィックまでXR750の生き写し。リジッドスポーツならフラットトラッカー向けのカスタムパーツも豊富で安価なことから、XR750をそのまま再現するオーナーも少なくありません。中古市場のタマ数も残り少なくなっており、車両価格も高騰気味と思われますが、手に入れるなら今しかないでしょう。良程度の車両を見つけたら逃す手はありません。
XL883Rだけではなく、XK1200SやXLH883,XLH883 ハガーなど「フロント19 / リア16インチのスポークホイール」「XR750を彷彿させるシルエット」「カスタムしやすい設計」という特徴を備えたリジッドスポーツは他にも揃っています。逆にXR750風にカスタムしづらいリジッドスポーツは、XL1200CやXL883Cといった特殊パーツが備わるモデル。カスタムできないわけじゃありませんが、ホイールサイズが21インチだったりオリジナルのメーターステーが採用されていたりと カスタムする部位が増えるのです。
ホンダ FTR223
400cc以下の中排気量モデルで「フラットトラッカー向きのバイクと言えば?」と聞かれて真っ先に思いつくのがこちら、FTR223。実際フラットトラッカースタイルのカスタムバイクが多数輩出されてもいます。シングルエンジンで骨格もシンプル、そしてホンダのレーシングカラーが描かれているので、確かにカスタムしやすいですよね。
ビンテージオフロードなどの土遊び系はもちろん、保安部品を備えれば街乗りバイクとしても大活躍すること間違いなし。セカンドバイクとして選択肢に持つのも良いですね。
インディアン FTR
フラットトラックレースの世界でもハーレーダビッドソンとしのぎを削ったライバル・インディアンがドロップしたFTR。仕上げこそロードスポーツモデルですが、ボディラインはフラットトラッカーそのもの。排気量が1,200ccと、日本人にとっては持て余すパワーを備えていますが、このスタイルで走るワインディングはスポーツバイクのそれとは違う味わいがあって楽しいです。FTRのほか、FTR Rally、FTR S、FTR R Carbonなどバリエーションも豊かになっているので、好みのモデルを探してみてください。
まとめ
同じオフロードバイク風カスタムのスクランブラーと違い、レーサー(競技用車両)としてのキャラクターを色濃く持ち合わせるフラットトラッカーには、オーナーの本気度が備わっていると言っても過言ではありません。好みの差はもちろんですが、1970年代という世界観への共感やレーシングスピリットを体現したい方におすすめしたいスタイルです。