とうとうバイクのオフシーズンが来てしまいました。凍結や降雪により、次の春までバイクとは「しばしお別れ」というライダーもいるかもしれません。一方、天候や路面状況が良好であれば「寒さに負けず乗る!」というライダーもいることでしょう。今回は、様々な意見がありそうなツーリング出発前の「暖機運転」について考えてみようと思います。
エンジン構造と材質
燃焼室に霧状になった燃料を一定の周期で噴射することで爆発が繰り返し行われ、ピストンの上下運動を回転運動に変化させ、動力を発生させています。
燃料が爆発すると必然的に高温になるという事に注目すると、暖機運転の必要性や程度が見えてくるかもしれません。やや理屈っぽくなりますがご容赦ください。
金属が「高温」になると「アレ」が起きる。
小学校で習った「熱〇〇」。
金属は熱くなると膨張を起こし始めます。これを「熱膨張」といいます。
熱膨張の実験は、小学校の理科の授業でバーナーと金の玉を使って実験したことを覚えていませんか。あの授業の内容が、エンジン内部で起こっているのです。
正式には「金属球膨張試験機」というらしいです。いつか、行きつけだったバイク屋の店主が言ってたなぁ
YZ125のピストンを計測
先日オーバーホールした際に出たエンジンピストンを見てみましょう。パーツの裏側を見てみると、部分的に「厚み」が異なっていることがわかります。
見た目にはわからない熱膨張
デジタルノギスで計測してみます。
上記の写真を比較すると、今回の場合はその差「0.08mm」でした。肉厚な左右側の方が僅かに狭くなっていることがわかります。
この歪な形のパーツは部分的に膨張率が異なるので、熱が加わった際に「真円」に限りなく近づくようもともと「楕円」で作ってあるのです。
エンジンブロックや内部のピストンやクランクシャフト、各部の動作に欠かせないベアリング等は、アルミや鉄といった合金のブロックを組み合わせて作られています。ここにも熱膨張の影響があるのでしょう。
したがって、冷えているエンジンは、厳密にいうと「最適の状態ではない」という事になります。また、ピストンだけでなくシリンダやベアリング、カムチェーンなど、重要パーツはほぼ金属です。エンジン始動時は「熱膨張」を意識して、暖機運転を行うと良いかもしれません。
当然ですが、エンジンが冷えた状態の時に過剰な空ぶかしやエンジンが高温になってしまう方法は控えましょう。近所迷惑ですしエンジンを痛めることにもなるので、始動直後はエンジンに極端な負荷をかけないように「熱膨張までイメージ」できると良いでしょう。これはライダー自身の経験に基づいて醸成されていくと思います。
まとめ
暖機運転には統一基準がなく、各マシンの年式や特性に応じて所有するライダーに委ねられることになります。「暖機」には「暖」という漢字が充てられています。私の場合はエンジン付近が「ボンヤリと暖かくなればよし!」という程度で行っています。そして出発から15分程度はマシンに配慮するような「いたわり運転」を心がけながら、その日の身体の調子をセルフチェックするように意識して運転しています。