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未来へ繋ぐ若きライダー スペインで軽量ハイパワーバイクを駆る岡谷雄太

※記事内容は全て執筆時点の情報です。

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【インタビュー】いざ、WSSPへ。2023年、岡谷雄太が果たした3つの“ステップアップ”

WSSPへの挑戦。新たなチームとの出会い。活動拠点の変化。それが、2023年の岡谷雄太にとっての3つのchangeだ。新たな戦いに向かう岡谷が進む道は、次第に整備されつつある。

変えた活動拠点。場所はスペイン、バルセロナ

パソコンの画面に映る岡谷雄太の背後から、明るい陽光がその室内に入り込んでいた。電光ではない明るさが、夜の帳が下りた日本との時差8時間と、大きく隔たる距離を示している。岡谷は2023年、スペインのバルセロナに拠点を置いているのだ。

「もともとスペインに行きたいなと思っていたので、今、それが叶っているんです」

生活環境が変わってどうですか? と聞けば、「あまりマイナスな面はないですね。プラスに働いてくれているかなと思います」と言う。2019年から世界への挑戦を開始し、ヨーロッパ各地を転戦してきた岡谷にとって、いまさら違和感を感じるものではないのかもしれない。

「スペインなら知っている日本人のライダーが何人かいますし、日本人がやっている日本食のお店がたくさんある。何度も来ているから土地勘もあって、交通事情についてもわかっています。それに、チームアジア(※ロードレース世界選手権Moto2、Moto3クラスに参戦するチーム。小椋藍などが所属している)のみんなとトレーニングに行ったりもできる。(バルセロナは拠点とする)場所としてすごくいいな、と思ったんです」

日本食レストランの話に触れているのが気になって、日本食が恋しくなるときは何を食べたくなるんですか? と聞けば、少し困ったような笑みを浮かべて「えー、なんだろう」と考える。

「ラーメンとかお寿司とか、食べたくなったりしますよ。あと、から揚げ! でも、自分で作ったりもします。昨日はカレーを作りました。簡単だから(笑)」

バルセロナには気心の知れたライダー仲間がいて、生活としてもトレーニングとしても望ましい環境がある。生活のほとんどの時間をレースに注ぐライダーにとって、こうした環境の変化はとても好ましいものに違いない。

「速っ!」と驚かされたWSSPマシンのファーストインプレッション

2023年シーズン、岡谷にはスペインのバルセロナに活動の軸足を置いたほかに、大きな変化がふたつある。スーパースポーツ300世界選手権(WSSP300)からスーパースポーツ世界選手権(WSSP)にステップアップしたこと。もうひとつは、所属するチームが変わったことだ。

オンラインでのインタビューを行った2月中旬の時点で、岡谷はすでに、スペインで3回のテストを終えていた。テストで走らせたカワサキ・ZX-6Rのフィーリングは、岡谷に驚きをもたらしたという。

初めてのWSSPマシン、600ccの走らせ方に最初は戸惑ったが、次第にタイムを詰めていった

「(オフシーズン中)日本では全日本ST600仕様のZX-6Rでトレーニングしていて、それほど大変でもないかな、と思っていたんです。でもこっちに来てチームのバイクに乗ったら、思ったよりも速かった。特に加速感があったのと、パワーも20、30馬力くらい違いました。久々にバイクに乗ってびっくりしたというか、想定と違ったので『思ったより速っ!』って」

WSSPは市販車をベースとするバイクで争われる選手権で、変更できないところが多い分、ライダーがバイクにアジャストしていく必要がある。最初は想定外のWSSPマシンのパフォーマンスに戸惑った岡谷だが、テストを重ねて順応し、手ごたえをつかんでいった。

「最初のテストのときはけっこう難しいなと思っていましたが、2回目のテストでは少し楽に乗れるようになって、タイムもだいぶ上がったんです。いいフィーリングで3回目のテストに行ったら、チームで目標としていたタイムを出せて、すごくポジティブな感じで終えられました」

「3回目のテストのときは、2022年のWSSP300チャンピオンがいて、彼よりも僕は1秒、速いタイムだったんです。差が確認できたので、よかったですね」

「走ることに集中できる環境がある」

いいチームとの出会いはライダーの強さをさらに後押しする。2023年のチームに、岡谷はすでにいい印象を抱いていた

岡谷にとって600ccマシンでのレースは初挑戦。WSSP300マシンとは違うライン取りや走り方に慣れていかなければならなかったが、チームのバックアップもあった。

基本的に、チームが言ってくれたことを全部、フォローしました。チームがデータでも走りを見てくれていたので、僕の乗り方で自分が分かっていなかったようなところも言ってもらえたりしました」

その口ぶりに、岡谷とチームとの間にいいコミュニケーションが生まれていることがうかがえる。2023年から岡谷が新たに所属するのは、プロディーナ・カワサキ・レーシング・ワールドSSPというイタリアンチームだ。

めちゃくちゃいいチームだな、と僕は思っています。僕の600ccバイクの乗り方を修正してくれたりもしました。このチームはそもそもWSSP300のライダーを育てる、というチーム。チームとして機能しているな、というのは感じましたね」

「それに、今のチームでWSSPに参戦するのは僕しかいないので、全ての力を僕一人に向けてくれるんです。チームが僕中心に動いてくれているような感じで、やりやすくなりました。細かいところなんですけど……、2022年のチームだと、ランチも僕が聞かないとどうなるか分からなかったりして……。でも今年のチームは、そういうところにも気を配ってくれます。バイクの面でも、このパーツを変えたから確認してきてね、とちゃんと伝えてくれたり。小さなところから、信頼関係を築けている気がします」

「今は、走ることに集中できる環境がある。すごくやりやすいです」

初挑戦のWSSPレース。重要になる予選順位と増えるレースディスタンスへの懸念

WSSPはWSSP300よりも周回数が多く、競い合うライバルたちの顔ぶれも違う。WSSPのレースで上位を狙うには何が重要になると考えているのだろうか。そう聞けば、岡谷は正直に今の自らの課題や懸念を吐露した。

「予選の順位はすごく大事だと思います。僕の目標は、一発の速さをどんどん上げていくこと。あとは速いペースを保ってレースディスタンスを走り切れるのか、ということですね。そこは未経験ですから。レースディスタンスについては心配なところはありますが、まだテストはあるので、そこで確認したいです」

2023年シーズン、岡谷はWSSPにステップアップし、信頼できるチームに加わり、個人的な生活環境も変えた。舞台は整いつつあるように見える。

「私生活としてもチームの関係性としても、上位をねらえるのかなという感じがある。ちゃんと準備をしていけば、自信をもって臨める気がしているので、開幕戦がすごく楽しみです」

2023年はWSSPに参戦するライダーのうち、8人がヨーロッパラウンドのみに参戦する“WorldSSP Challenge”で、岡谷もその一人である。このため、岡谷の開幕戦は第3戦。4月21日から23日にかけてTT・サーキット・アッセンで行われるオランダラウンドで、岡谷雄太の2023年シーズンの幕が上がる。

岡谷雄太/1999年7月12日生まれ。東京都出身

2018年に全日本ロードレース選手権J-GP3にフル参戦し、3勝を挙げてランキング2位を獲得。2019年からはWSSP300に戦いの場を移した。2020年はカタルーニャラウンド レース2でWSSP300において日本人ライダーとして初優勝の快挙を成し遂げる。2021年はランキング5位。2022年は1勝を含む4度の表彰台を獲得してランキング7位。2023年シーズンから、プロディーナ・カワサキ・レーシング・ワールドSSPより、カワサキ・ZX-6RでWSSPに参戦する。

スーパースポーツ世界選手権(WSSP)

スーパーバイク世界選手権(WSBK)に併催される、市販車をベースにした車両で争われる選手権。以前は600ccクラスのバイクで争われていたが、2022年シーズンからレギュレーションが変更され、2023年シーズンはカワサキ・ZX-6Rやヤマハ・YZF-R6、ホンダ・CBR600RRとともに、ドゥカティ・パニガーレV2、MVアグスタ・F3 800RR、トライアンフ・ストリートトリプル765RSが参戦する。

写真:GP agency
テキスト:伊藤英里

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