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猛烈な加速を魅せるジャジャ馬。カワサキ 500SSマッハⅢ【70s旧車バイク戦国時代】

※記事内容は全て執筆時点の情報です。

目次

世界を驚愕させた2ストローク3気筒500cc。KAWASAKI 500SS マッハⅢ の衝撃

カワサキというメーカーには、世界最速を至上命題として開発された機種が多く存在する。 

わかりやすい例で言えば90年代後半から00年代に巻き起こったメガスポーツブームだ。 ZZR1100が公道300km/hを達成したのを皮切りに各メーカー最高速300/hを超えるフルカウルのメガスポーツツアラーを続々と発表。 ホンダがブラックバード、スズキから隼が登場し、真打ちとして姿を現したのがZX-12Rである。 

その最高速は350km/hを超えると言われ、初期型は暴力的な加速を有するため、乗りこなすには相応のテクニックが必要とされた。 

そしてこんな流れは60年代から連綿と続いている。 

欧米列強のバイク市場の中で69年に市販車世界最速を達成したのが泣く子も黙る、カワサキ500SSマッハⅢだ。 

世界で一番速いバイクを創る

このマッハの開発にあたってコンセプトとなったのが「世界一速い加速と最高速を有すること」である。実に単純明快で実にシンプルであるが強いものである。 

「大人のライダーに向けた鼓動感あるエンジンと操る愉しみ 」

であるとか 

「ビギナーでも肩肘張らずに付き合える乗りやすさ」

であるとか、 

社内会議を重ねて重役の意見とか、マーケティングのデータとか、販売店の意見とか、諸々を詰め込んでいくと良くわからない薄ぼんやりしたコンセプトに辿り着きがちであるが、それではライダーのソウルは中々震えないもんで、やっぱ「一番速いの出てこいや!」が、結局効いちゃうわけで強いのである。 

量産市販車では例を見ないエンジンレイアウト

 このマッハ500SSのエンジンは並列2気筒ということで、開発が進んだが、かつてないバイクを生み出すという気概の中、量産車としては初となる並列3気筒のレイアウトに決定。 

2ストローク500ccという今考えても少し頭のネジがはずれいるのでは?と心配になるような狂気のエンジンが完成する。 

 点火方式に当時の最新技術であるCDI(ヨーロッパ向けはポイント点火)を採用するなど、前代未聞のハイパワーな出力に対応するため、タイヤまで新開発されるなど、数々の逸話は枚挙にいとまがない。 

こうして姿を現した500SSは、車体から左右に大きく張り出したエンジンに、アンシンメトリカルな右2、左1本のマフラーレイアウト、そのマフラーから盛大に吐き出される紫煙と、見た目からその狂気が伺われるもので、今現車を目の当たりにしても、背筋が伸びる感がある。 

その走りは強烈そのもで、高速域では一気にパワーがピークまで達し、パワーバンドに入ると簡単に前輪が浮いてしまうような暴力的加速は大きな賞賛を受けた。 

その乗り味から当時のライダーの中では“じゃじゃ馬マッハ”とか“キ●ガイマッハ”と呼ばれ伝説的存在となっていったのである。 

そんなマッハは今乗っても十分エキサイティングな暴れん坊将軍

実加速や最高速など数値で比べれば今のバイクの方が速いのは当たり前だが、体感で考えれば500SSマッハの方が速い! というかスリリングある。 

安全、安心、やさしい世界の現代では、こんな狂気の宿るバイクなど開発もできないので、今後一切、二度と登場することはないだろう。 

それに今はスペック上速いバイクを作りたければ幾らでも速いものを造れるはずだ。 

しかし、1960年代ではこれこそが当時の技術の粋を集めた全心全力フルスイングの結果である。 

そこには、当時の技術者達が「ぼくのかんがえたいちばんすごいばいく」がまるで具現化したかのようなロマンがあるのだ!

そんな500SSマッハⅢは発売から1年半ほどで約2万台を生産したというから、どれほど多くの人に受け入れられたかが良くわかる。

続々投入された兄弟モデルがマッハシリーズを形成

こんな500SSマッハは500ccから始まって、350cc、750cc、250ccと次々に登場し、マッハシリーズを形成。250ccもちゃんと3気筒の2ストエンジンなので、マッハらしさを堪能できるものだった。 

350SSマッハⅡは1971年に発売された。当時の価格は23万円で最高速は180km/h近くに達した。
250SSマッハⅠは1972年に発売。当時の価格は21.8万円。

マッハを筆頭にカワサキからも他メーカーからも、個性の濃縮還元のようなバイクがラッシュアワーの満員電車のように次から次へと出てくるのだから70年代はライダーにとって毎年が驚天動地、狂喜乱舞の時代だったろう。 

マッハシリーズ最高峰の750ccもやっぱりすごかった!

1972年登場の750SSマッハⅣは200km/hを超える最高速を実現した。

かくいう私も750SS H2に試乗したことがあるが、乗る前から「バランバランゲロゲロゲロ」という周囲の空気を震わすような排気音に気圧されたのを覚えている。 

もちろん仕事上の試乗だったので、無理はできなかったが、パワーバンドの入り口あたりでそのワープ感の片鱗は十分感じることができた。 

全開加速を始めると、上半身が後ろに引っ張られるようにフラットなシートの上を尻が滑り、必死にハンドルを掴んでなんとか耐えるのがやっと。全身が総毛立ったのを今も強く覚えている。 

このピーキーさは500SSに比べるとかなりマイルドになっているそうで、500SSの中でも初期型は度を超えたジャジャ馬であるというのである。

やがて4ストローク全盛の時代が到来しマッハは伝説に……

確かにマッハシリーズ強烈にエキサイティングなバイクであるのは間違いはない。しかし、これでロングツーリングに出かけろと言われればやはり躊躇してしまうのが正直なところだ。 

毎日乗るなら、もう少しフラットなパワーの出方と、もう少し穏やかな排気音、さらにメカニズム的にも信頼感があるバイクを求めるのは当時のライダーも一緒だったのだ。 
 

やがて時代は4ストローク時代へと突入していく

ビッグバイクの中心は4ストローク4気筒エンジンへと移行していくのは、時代の流れとして避けられないものだった。その流れの中で、また続々と名車が生まれていき、日本のバイク産業が世界の中で確固たる地位を確立したのは紛れもない事実である。 

しかしながら、マッハシリーズの元祖である500SSは世界最高の加速と最高速を達成したバイクであり、こんなキャラクターの際立ったバイクはカワサキにしか生み出せないし、今に続くカワサキというメーカーのイメージを決定づけた存在に思えてならない。 

群雄割拠のスーパースター揃いの70年代バイクシーンの中で一際強い輝きを放っている。 

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