年々暑さを増す夏。酷暑の中でも安全にオフロードバイクを楽しむための暑さ対策やグッズをまとめました!
梅雨が明け夏本番。年々暑さが厳しくなり、屋外で運動するリスクが高まっています。オフロードバイク競技もそんな屋外スポーツの1つ。とはいえ暑い中でもオフロードバイクを楽しみたい! ということで、この記事ではオフロードバイクにおける熱中症対策やその対策グッズをご提案します。
熱中症のメカニズム
熱中症対策を行うにあたり、まず熱中症はどういう状況で起こりうるのかを知っておく必要があるでしょう。熱中症は運動や仕事などで体を動かした時に体内で作られた熱が上手く放出されず、 体温が上がると起こりやすくなります。
「人の体温は36℃から37℃くらいに保たれています。脳を含む重要な臓器は、37℃以下で一番うまく働き、体温が高くなると機能しにくくなります。また、汗をかいて体から水分が減少すると、筋肉や脳、肝臓や腎臓などに十分に血液がいきわたらないため、筋肉がこむら返りを起こしたり、意識を失ったり、肝臓や腎臓の機能が低下したりします。こうして体の調子が悪くなって、熱中症が引き起こされるのです」(参考:https://www.netsuzero.jp/learning/le12)
どう対策すれば良いの? 専門家に聞く熱中症対策
今回はオフロードバイクにおける熱中症対策について、一般財団法人日本気象協会が推進するプロジェクト「熱中症ゼロへ」のリーダーである泉澤里帆(いずみざわりほ)さんにお話をうかがいました。同プロジェクトは2013年夏に発足され、今年で12年目。熱中症にかかる人を減らすことを目標に、熱中症の基本的な情報から対策方法などを発信しています。
ホームページ:https://www.netsuzero.jp/
オフロードバイクと言っても、モトクロスとエンデューロでは特徴が全く異なります。たとえば、モトクロスのレース時間は10分〜30分(クラスによって異なる)。その間の休憩時間はありません。走行時の心拍数は平均180〜195bpm。その運動量の高さがわかります。一方、クロスカントリーやエンデューロのレース時間は1時間〜3時間ほどと長いです。バイクを押して坂を登ったり降ったりすることもあるのが特徴です。実際に心拍数は平均低くて150bpm、高くて160〜170bpmほどとなります。ただ、筆者は真夏にエンデューロのレースに出場した経験がありますが、炎天下のもと立ち止まったりバイクを押した時、走行時に当たっていた風がなくなり、身体からの熱気を感じてまるでサウナにいるかのような状態になり、熱中症になりやすいです。
また、オフロード競技は装備やレースの特性上、一般的な熱中症対策が行えないという点があります。今回はこれらを踏まえつつ、どんな対策をすべきかを聞きました。
走行前の備え:暑熱順化トレーニング
モトクロスは基本的に走行中に休憩したり立ち止まる瞬間がありません。そのためレース前の対策が大切になるといいます。
「スポーツをする上で効果的なのが、『暑熱順化トレーニング』です。暑熱順化とはつまり暑さに慣れることです。私たちの身体は汗をかくことで体温調節をしているのですが、高い気温に慣れていない状態で急に暑さを体感すると、身体の調整機能が追いつかずに熱中症になるリスクが高くなります。そのため、まず暑さに慣れることで、汗をかきやすい身体を作り、塩分などを失わないようにすることが大切です。具体的には、暑くなる前の5月ごろから徐々に身体を暑さに慣れさせていくと良いでしょう。屋外ですと1回30分のジョギング・ランニング・サイクリングを週に5回ほど、室内だと筋トレやストレッチ、2日に1回は入浴することが効果的です。サウナも暑熱順化に効果的ですので、習慣化すると良いでしょう。
なお、一度暑熱順化を行っても、期間が開くとその効果はなくなってしまいます。暑熱順化するには数日から2週間程度かかると言われているので、トレーニングは継続していくことが大切になります」(泉澤さん)
なお、1回30分のジョギング・ランニング・サイクリングを週に5回、というのは何も運動していない状態から行うにはきついかもしれません。まずは習慣化することを目的に、週に1〜2回など自分に合ったペースで行うと良いでしょう。また、暑さに負けない体を作るには、まず日頃から3食バランスの良い食事と十分な睡眠を取り、生活リズムを整えた上で行いましょう。
走行前の備え:ウエアは通気性・吸水速乾性を重視した夏用を
オフロード競技は屋外で行われる、かつヘルメット・プロテクター・ブーツ・長袖長ズボンのウエアなど全身装備で行うため、服を半袖にして熱を逃したり、という衣類面での対策は難しい部分があります。その中でどう対策していけば良いのでしょうか。
泉澤さんによると、「なるべく通気性と吸水速乾性に優れたものを選んでいただくことが大切です。ウエアを着ることで熱が体内に溜まりやすくなり、熱中症にかかるリスクが高くなるため、体の表面から空気中へ熱を逃がして体温調整できるように、ウエアの素材選択を意識すべきところだと思います」とのこと。なお、オフロードウエアは耐久性が高くコスパの良い初心者向けモデルから、高性能な上級者モデルなど種類豊富に揃っており、夏時期には薄手の生地にメッシュ素材が多めに使用された夏用モデルもラインナップします。熱中症対策のためにも、夏用のウエアを持っておくと安心でしょう。
走行前・中:身体を”冷やす”ことを意識する
全身装備によって熱がこもりやすい分、身体を冷やすという点も重要になってくるといいます。
「モトクロスはレース中に身体を冷やすということは難しいと思いますが、たとえば冷感インナーを着用することで走行中も涼しさを感じることができると思います。また、レースが始まるまで体力を温存するという点で、日傘を使用して涼しさを確保したり、氷嚢(ひょうのう)やネッククーラーで首を冷やしたり、ファン付きベストや冷感ベストで体温を上げないように対策することも効果的です。一方、エンデューロでは余裕があれば休憩したりピットインすることが可能ということで、休憩時には冷水を浴びたり、クーラーをつけたトランポの中で涼んだりと身体の火照りを抑えることが大切です。長時間のレースのなかで”こまめに”身体をケアすることを意識してほしいです」(泉澤さん)
【ご注意!】
ファン付きベストを着用しての競技参加につきましては、各競技のレギュレーションを確認してください。
レース中・後:水分補給は少量ずつこまめに
「1日に飲む水分量は個人差がありますが、喉が渇いていなくてもこまめに水分補給をすることが大切です。また、身体の中の水分と塩分のバランスが重要ですので、塩分も取るように心がけていただきたいです。たとえば、スポーツドリンクは水分・塩分・糖分が含まれているので対策品として優れていて、一つでバランス良く補給できます。一方でスポーツドリンクの味が苦手な方もいると思います。そのような方は水であったり、食塩水をおすすめします。水を飲む場合は、別途塩分タブレットや塩飴などで塩分補給をしてバランスを取ると良いでしょう。食塩水は1リットルの水に対して塩を1〜2g入れて作るのが目安です。
どれくらいの量を飲めば良いのかというのは、その時の状況に応じて変わります。その目安として、我々のプロジェクトでは「熱中症セルフチェック」というものを用意しています。成人の方が屋外で激しい運動をされる場合、1時間に1リットルほどの水分が失われるので、これを補うように水分補給をしていただくと良いと思います。
また、一気に冷たい水を飲むと胃腸に負担がかかって熱中症以外の部分でも不調が出てきてしまうので、こまめに飲むことを心がけて欲しいです。大体温度が5度〜15度が体が吸収しやすいということで、水分の温度も意識すると身体の負担を軽減できます」(泉澤さん)
事前情報も大切に。見るべきは気温と”湿度”
「熱中症対策というと気温の高さに目を向ける方が多いですが、熱中症のリスクは気温だけでなく、湿度や風の影響も受けます。これらをまとめたのが暑さ指数WBGT(Wet Bulb Globe Temperature、湿球黒球温度)です。走行する前に情報を得ておくことで、熱中症への意識が高まり対策もしやすいでしょう。特に湿度が高い中でプロテクターやウエアを着用して運動するというのは、汗の蒸発が抑えられてしまい、体温調節が困難になります。数値もベースにしながら、対策していただきたいです。
オフロードコース周辺には、近くにコンビニなどがない場合もあると思います。そのため、コースに行く前に水分や塩分、応急処置用の経口補水液などを事前に用意しておく必要があります。熱中症対策は防災と同じで、事前の備えが重要です」(泉澤さん)
暑さ対策グッズ12選
暑さ対策には、身体を冷やしたり、涼しくするためのアイテムが必須。オフロードコースでも活用できる暑さ対策グッズを用途別に見てみましょう。
冷やす
暑さ対策として重要なのは身体を冷やすこと。体温の上昇を防ぎ、火照りを軽減するためのグッズは年々増え、さまざまな種類が揃っています。
・氷嚢(ひょうのう)
氷嚢は氷を入れる巾着袋のようなもので、患部のアイシングやスポーツ後のクールダウンとして重宝されているアイテムです。中の氷を入れ替えることで何度でも使用できるのが特徴です。レース前の体温上昇を抑えたり、頭や首元に当てることでレース後の火照った身体を冷やします。
・ネッククーラー
効果としては氷嚢と同じですが、ネッククーラーは首に巻くことができるため両手が空くのがメリットです。冷凍庫で凍らせて使用するタイプや冷却効果の持続時間が長い電動タイプなど種類が豊富です。
・冷感スプレー
衣服に吹きかけることで肌温度が低くなり涼しさを感じることができます。メントールが配合されているため、ジャージやパンツに吹きかけることで、汗や走行中に当たる風を生かして涼むことができます。ウエアを脱いで調整することが難しいオフロード競技には効果的ではないでしょうか。
日除け
直射日光に当たり続けると熱中症になる危険性が高まります。そのため、日傘は必須アイテム。コースウォーク時やレース前のグリッドでスタートを待っている間など、少しでも直射日光を避けることで熱中症の予防になります。
・日傘
ダートフリーク
アンブレラ
¥3,850(税込)
カラー:チェッカー、ブラック(ZETA)
サイズ:全長:102cm、直径:135cm(展開時)
素材:生地:ポリエステル、骨組み:グラスファイバー、持ち手:EVA
ライダーはスポンサーやメーカーの傘を使用している人が多くいます。もちろんダートフリークのアンブレラもあります。店舗やオンラインはもちろん、全日本会場などでも販売しているのでチェックしてみてください。
身につける
オフロード競技のウエアは安全性を考慮して長袖長ズボンが基本です。衣類での調整が難しいですが、冷感インナーや待機時にファン付きベストなどを身につけることで涼しさを感じられるでしょう。また、レギュレーションが許せば水分補給ができるハイドレーションを携行するという手もあります。
・冷感インナー
DFG
レーシングシャツ クール
¥6,600(税込)
サイズ:S、M、XL、XXL
カラー:ブラック
DFG
レーシングパンツ クール
¥9,680(税込)
サイズ:S、M、XL、XXL
カラー:ブラック
冷感インナーとしておすすめなのが、DFGのレーシングシャツ/パンツ クールです。オフロードライディング専用設計のインナーで、吸水速乾性素材を採用。脇と背中にベンチレーションメッシュを配置しているため通気性も抜群で、暑い夏のライディングも快適にしてくれます。
・ファン付きベスト
背面に小型のファンを装着できる作業服です。バッテリーで可動させたファンで外気を取り込み、服の中で風を循環させることで蒸れを抑えます。長袖やベストなど種類はさまざま。風が吹いていない日や風が直接当たらない場所にいる時でも涼しさを感じることができます。
・水冷式ベスト
こちらは氷水の循環システムを採用したベストです。空調服は外気を取り入れて涼しさを感じるのに対し、水冷式ベストは背面に水と氷を入れ、衣服内のチューブを通してその冷水を循環させることで身体を冷やします。
・ハイドレーション
ハイドレーションはハンズフリーで水分補給ができるハイドレーションシステム。水分を入れたリザーバーをバッグの中に入れて背負うことで、走行中に水分を持ち運ぶことが可能です。水分補給はリザーバーにつながっているチューブを通して飲みます。ボトルの蓋を開けて飲むという行為がないため、走行中もラクに飲むことができます。長時間となるエンデューロのレースでは使用している人が多いですが、モトクロスでもハイドレーションは活用できます。
クールダウン
・扇風機
扇風機で風を送ることで熱がこもるのを防ぐことが出来ます。走行中はあまり感じないかもしれませんが、例えば一通り走行した後にバイクを降りると顔の周りなどに熱が集中しているのを感じることがあるでしょう。熱放出を促すアイテムとして扇風機は効果的です。
また、レース前のライダーを見てみると、バッテリー式の扇風機を抱えて風に当たっている人もいます。たとえば冷感スプレーをつけて扇風機に当てるとその涼しさは増します。うまく組み合わせることで自分なりの対策を見つけてみましょう。
・簡易プール
火照った身体をクールダウンさせるアイテムとして、簡易プールも近年注目度が高いです。特にレース直後の身体は体温が上がり火照った状態のため、休憩時に氷水を貯めたプールに入ることで全身を一気に冷やすことができます。
・タオル
ダートフリーク
DIRTFREAK マフラータオル
¥1,980 (税込)
汗を拭うためのタオルも、熱中症対策アイテムとして欠かせません。ダートフリークではマフラータオルをラインナップしており、夏場の練習やレース時に活用できますよ。
食べ物で予防
・スポーツドリンク
スポーツドリンクは運動中に失われる水分・塩分に加え、疲労回復に効果がある糖分が含まれています。スーパーやコンビニで買うことができ、一本で多くの栄養素を取り入れることができる点はメリットです。
・塩分タブレット
水分と塩分はバランスよく摂取する必要があります。特にスポーツドリンクではなく水を飲む場合、塩分タブレットを水分補給と同じタイミングで食べることで、水分と塩分をバランスよく補給することができます。
現役ライダーはどう対策しているの? 馬場大貴選手に聞く暑さ対策
現役トップライダーはどんな対策を行っているのでしょうか。今回、DFGのサポートライダーである馬場大貴選手に対策方法をお聞きしました。なお、馬場大貴選手は元全日本モトクロス選手権IA2ライダーで、2021・2022JNCCチャンピオン。現在もJNCCでトップを争うライダーです。
水分補給について
「基本的に夏場のレース前は水分を体内に溜め込む対策をしています。たとえば、日曜日のレース当日に向けて、身体に水を溜め込む”ウォーターローディング”を行っています。レース前の水曜日くらいから1日1〜2リットル以上の水を飲み、木曜日からは経口補水液を毎日1本飲んでいます。これによって大会当日も脱水症状になりにくく、疲れにくくなったと感じますね。
水を飲むペース配分も気をつけていて、夏はレースの最初の1時間で水を結構飲むように意識してます。レース後半は身体がつりやすくなるんですよね。喉渇いて身体つりそうと思ってから飲んでももう手遅れなので、かなり意識的に、前半の1時間までにこまめに水分補給しています。というのも、前に、レース中にハイドレーションの飲み口が取れてどこかにいっちゃった時があって、ピットインした時に水分補給してまたレースに出ていくことで対応したのですが、レース後半は全然身体が動かなかったんですよね。水分が不足するとどれほど身体が動かないかというのを身をもって経験しているので、水分補給は意識的にやってます」
走行中のノウハウ
「僕自身ハイドレーションにはスポーツドリンクではなく水を入れています。ベタベタするのが嫌で水を好んで飲んでいます。また、水をあえて身体にかけるということもしています。レースの前半はそんなにやらないですけど、身体が熱くなりそうかもと思ったら、早い段階でわざと飲み口から水を溢れさせてウエアとかインナーの胸元あたりを濡らして、涼しくしています。だから僕のウエアを見ると胸元に砂が多めについていたりすると思います。みんな重さを気にして少なめに水を入れるのですが、僕は逆にこういう使い方もするので多めに水を入れています」
サウナで暑さに慣れるトレーニング
「全日本モトクロス選手権に出ていた時からサウナトレーニングを取り入れています。モトクロスってヒート1とヒート2、多いとヒート3まであるじゃないですか。その間に体力を回復するために食事をとるのですが、身体が火照って、内臓も熱を持っていたりすると食べられない時があって。ヒート1で体力を使い切っちゃうとその後はもう体力を回復することができなくてレースも持たないので、それを防ぐためにサウナに行って、身体を暑さに慣らしていました。夏場の練習中にバイクを降りた時や転倒した時とかって、頭や顔周りがすごく暑いじゃないですか。サウナもその感覚と同じなんですよね。
ペースとしては週に2〜3回行くようにしていました。12分を2本とか、体力がきつい時は10分を2本とか無理しない範囲で行っています。初めての人は6分くらいから始めると良いと思います。6分って結構山場で、12分入っている中でも一番キツく感じてくる時だったので、まずは自分に合った時間で始めて、徐々に慣らしていくことが大切ですね。
サウナトレーニングをし始めてからは、多少バテてもちゃんと食べられるようになりました。いかに回復して挑むかという点で、すごく効果を感じています。また、身体が熱くなったりバテてきても、意識が朦朧とせずに、冷静に考えて走ることができるんですよね。そういうところで、暑さへの慣れは大切だなと思います。
特に夏場のレースでいうと、全日本モトクロス選手権だと土曜日は暑い中予選を走る時は身体が力みがちで、筋肉に疲労が溜まりやすいんですよね。次の日の決勝に向けて疲労を残さないためにも、1本でもいいからサウナに軽く入って汗を流して、水に入ると疲労が抜けやすいと感じてやっていました」
今回解説した暑さ対策を参考に、この夏もオフロードを安全に楽しみましょう。
text&photo RIDE-HUCK
RIDE-HUCK掲載日:2024年8月9日