“SS”というバイクはそのスタイリングから「凄く速い!」との印象を受けますが、ヤマハYZF‐R1は上質な加速性能はもとより、コーナーリング性能、旋回性やハンドリングなどに定評のある代表的なスーパースポーツバイク。今回紹介するR1が発売されていた期間は2002年~2003年の2年間。デザイン、車体剛性、そしてシリーズ初のFI(電子制御燃料噴射装置)が採用されており現代も続くYZFシリーズの礎になっているといえる一台です。
2003年 YZF-R1 5PW
1998年に発売されたヤマハ初のリッタースポーツバイク「YZF-R1」の三代目。エンジンの造形をアピールするかのように面積が少なくなったカウル形状は、全体的に尖った印象になっています。他にもこのモデルを機にテールランプがLED化されているところも実に近代的。視認性が上がっており、安全性が向上しているのは嬉しいポイント。
パワーの出力に緩急が現れやすいキャブレターの弱点をFI(電子制御燃料噴射装置)を採用することで解消を実現。しかし、当時は各機構の小型化が進んでいなかったため「FI」といっても、その形状はかなりメカメカしくなっています。
地元のバイク屋さんで購入し約3年間乗車していました。本来、セパレートハンドルが採用されていますが購入時はバーハンドル化されており、扱いやすかったのを覚えています。購入時の予備部品として純正パーツも頂いたため、3年目には純正ハンドルであるセパレートハンドルへ変更しました。
私自身「SSは一般道路においては走りにくい!」というイメージがありました。そもそも、SSという所領特性上「スポーツ走行が前提」の車体形状であるため高速走行、高速カーブ、風圧にライダーが効果的な対応を促すためのポジションに仕上げられています。反対に一般道路における速度域はSSであるR1にとって不向きな道路環境と言えるでしょう。これに輪をかけるようにハンドルの切れ角が浅く、覚悟をもって運転していたことを覚えています。
車両重量は乾燥で170㎏、油種類や燃料といった走行に必要なものを含む「車体重量」であっても194㎏と200KGを下回るほどの軽量マシン。エンジン出力は152ps。装備重量+60KGのライダーが乗車したという想定を元にパワーウエイトレシオを計算すると、
( 重量 ÷ 馬力で計算 )
194÷152=1.2 つまり、パワーウエイトレシオは「 1.2 」となります。(驚異的)
比較的軽量かつ高出力のエンジンを搭載し、高いコーナーリング性能を有する速いだけじゃないモンスターマシンと言ってもいいでしょう。定評のあるコーナーリング性能とモデル初のFI搭載によりムラが少ない乗り味を体感することができます。たとえるなら「地面に吸い付くコーナーリング」や「地を這うマシン」のように、繊細なコーナーリングと荒々しい加速を、バランス良く持ち合わせています。
停止時または低速時においては車体形状やハンドルの切れ角が浅いことにより、扱い難さを拭うことができませんでしたが、ひとたび走ると自然に曲がってくれるため乗りにくそうなスタイルとは逆に「このスタイルでないと楽しくない!!」と思えるようなバイクでした。
直4エンジン
今となっては、YZF-R1といえば「クロスプレーン」の印象が強いかもしれませんが、2003年のYZF-R1はフラットプレーンでバイクらしいエンジン音を奏でていました。また、FIの尖ったレスポンスは工夫を凝らしてマイルドにした設計とのことで、キャブレターの特性が残っているような吹け上がりであったことを覚えています。このことから、一部では「キャブジェクション」と言われることもあったようです。当時のR1サウンドには、古(いにしえ)のエンジンの名残がありました。
SS乗りだけの特別感
走行中、スロットルをひねった時の「天井知らずの加速感」は今でも覚えています。どの速度域からでも伸びていく加速性能は走り過ぎて怖い。一方、ワインディングロードにおいてはコーナーリング性能の高さを楽しめたのです。周囲のライダーからは「乗りにくそう」と何度も言われましたが、SS独特の乗車姿勢とR1が有するコーナーリング性能とのマッチングは、運転しているライダーしか感じることができない特別な操作感覚だと思います。
色褪せないデザイン
2002年YZF-R1(5PW)の発売から既に20年以上経っていますが、そのデザインは現在のSSと比較しても見劣りしないように感じます。比較的軽量な印象を受ける理由としては、少なくなったカウルパーツ面積かもしれません。このエンジン見せるようなデザインは現代のマシンに通ずるものがあると思っています。このR1の車体色を調べたところ、正式名称は「ヤマハブラックSPバージョン」。特徴は何といってもカウル側面に施されている「ベタなファイヤーパターン」。少し古臭い印象を受けつつも前衛的なデザインは、キャラ被りしない存在感がありました
XSR900の発表により乗り換えを決意
年式や走行距離、純正部品の供給が終了しているなどの理由により乗り換えを検討していたところ、突然の「新型XSR900」のニュースが届きました。大阪モーターサイクルショー2022にて初対面し決意。この機会にと思い後日査定に出してみたのですが、年式や走行距離などの理由により提示金額は低め。バイク買取業者を何社か周って、納得の提示金額で商談成立。今回のR1は私が初めて所有した大型バイクで、その性能やルックスはもちろん、大型バイクならではのロングツーリングなどをつうじて私自身のバイク観に大きな変革をもたらす一台でした。
思ひ出は、次のバイクへ。
初めての大型二輪、長野県ビーナスラインへのツーリング……約3年の付き合いだったとはいえ思い出の詰まったバイクの売却は名残惜しかったのですが、そのセンチメンタルな気持ちを上回る次なるマシンとの出会いも、閉塞的なコロナ禍を共に過ごしたYZF-R1のおかげかもしれません。この年式のR1は、それなりに積載を確保することができたので、ツアラーのような使用が多かったのですが、もう一度乗る機会があるとしたら、やはりサーキット走行ですよね。