最近、街中を走っていると見かけるナンバー付きの電動キックボード。現在、道路交通法の車両区分には「特定小型原動機付自転車」と「“特例”特定小型原動機付自転車」の2つがあり、ちょっとわかりにくいけど、
- 法定速度が時速6kmまでで歩道も走れるのが「“特例”特定小型原動機付自転車」
- 法定速度が時速20kmまで歩道を走れないのが「特定小型原動機付自転車」
……と覚えておけば概ね間違いない。どちらもヘルメットの着用に関しては“努力義務”で、中には意図的に速度を制限する機構を組み込んで「“特例”特定小型原動機付自転車」から「特定小型原動機付自転車」に車両区分を切り替えて走行ができる、“モビチェン(モビリティチェンジ)”に対応したモデルもある。
また近年は、電動アシスト自転車もずいぶん普及が進み、地域によっては50cc原付一種よりも多く見かけるぐらいだが、こちらはナンバー(車両登録)の必要がなく、あくまで自転車(軽車両)扱い。ただ、電動アシスト自転車の動力はあくまで“アシストのみ”で、停止状態からモーターの動力を使って走り出したり、漕がずに進み続けることはできない乗り物だ。
試乗・文・写真:谷田貝 洋暁
開発中のスズキのe-PO(イーポ)はあくまで原付一種扱い
さて、前置きが長くなったが今回試乗するe-PO(イーポ)は電動アシスト自転車のような形をしているもののあくまで“原付一種”の乗り物。いわゆる50ccのスクーターやスーパーカブ50と同じ乗り物で、上の表で言えば上から2段目となる「原付一種(〜50cc)」の車両区分となる。
昨年のJAPAN MOBILITY SHOW 2023(旧モーターショー)で参考出品されたモデルであり、スズキの言葉を借りれば“原付一種の折り畳み電動モペッド”。電動アシスト自転車のような形をしているがあくまで車両区分は原付一種で免許やヘルメットの着用義務がある乗り物として発表された。
また今回の試乗会で乗った車両は、スズキが行なった公道走行調査(2024年6月)に使用したテスト車両であり、現在のところこのe-POに関して発売時期はもちろん、発売するかも確定していないとのこと。あくまで“メディアの反応”や記事による“消費者の反応”をみて、この後の状況を決めるために行なった報道関係者向けの試乗会というわけだ。
スズキのイーポの最高速は40km/h弱
スタッフからひと通りの操作説明を受けてe-POの試乗を開始。……と言っても乗り方はいたって簡単で、メーターにあるボタンで電源をオンにして右グリップのスロットルを回せばモーターが駆動して前に進む……とこれだけで、他は一般的なギヤ付き自転車となんら変わりがない。
電動アシスト自転車とは違い、e-POは停止状態からもスロットルを開ければ前へ進み出す。またペダルを漕ぎながらスロットルを開けたときの雰囲気は電動アシスト自転車の加速感に近いがより力強い印象。今回はクローズド環境での試乗会だったこともあり、どのくらい速度が出るのかをテストしてみると、身長172cm、体重75kgの筆者の場合37km/hの速度が出せた。ただ、かなり体重や身長によって最高速には差があるようで、体重50kgのライダーの場合、しっかり漕げば50km/h出たとのことである。
スズキによれば速度に関しては、50ccモデルの30km/h制限に合わせて設定したとのことで、緊急回避などもしもの場合に備えて制限速度よりもう少し速度が出るような設定にしているという。原付一種と考えるとちょっと遅いと思うかもしれないが、自転車にしてみれば相当な速度である。
しかもe-POは折り畳み可能。この手の折り畳み自転車は、蝶番や伸縮などのギミックが多い分、ちょっと剛性不足というか、頼りない感が出る場合が多いが、e-POは結構な速度を出しても不安にならないところがいいと感じた。
e-POはパナソニックの電動アシスト自転車「オフタイム」をベースに開発されており、スズキとして“原付”化するために相当手を入れているのかと思いきやアルミ製のフレームはほぼそのままだとか。車体関係の変更点としては、ブレーキをカンチブレーキからフロント側をディスクブレーキ化し、リヤはローラーブレーキを採用。操縦安定性の観点からタイヤをやや太くしたくらいで、車体剛性に関しては全くと言っていいほど手を加えていないという。
この辺りのさじ加減は開発陣も悩んだとのことだが、“モアパワー!”なんて感じでよりバイクらしさを求めてしまうと、この乗り物の手軽さが失われてしまうため、安全面でどうしても譲れない部分だけの変更にとどめたという話だ。
動力に関しても、パナソニック製のモーターユニットをそのまま採用しており、バッテリーまわりもパナソニック製。ちなみにスズキではパナソニックのカルパワードライブユニットを採用した電動アシスト自転車の「ラブSNA26」、「ラブSNA24」を発売中。e-POが搭載しているバッテリーは、この「ラブSNA26」、「ラブSNA24」はもちろん、パナソニックの「オフタイム」とも互換性があり、バッテリーを共用使用することができるという。
アルミフレームで軽量&折り畳んで運べるスズキのイーポ
乗り物としてのe-POの面白いところは、折り畳んで収納したり、車に乗せて持ち運べるというところだろう。ガソリン車とは違い横倒しでの積載が可能であり、匂いもないので扱いやすい。それに実際に畳んでみると思ったよりコンパクトで、車の荷台に多少の余裕があれば積めてしまえそうな雰囲気。少なくとも折り畳み式の車椅子が積めるスペースがあれば、e-POも十分積めると考えていいだろう。
普段は日常の足として使い、休日はロケーションのいいところまでクルマで運んで、そこから先はe-POでツーリング。自転車とは違い、坂道も苦にならないから景色や美味しい空気を楽しむ余裕が生まれるというわけだ。
ちなみに重さはバッテリー込みで23kg。こう聞くと重たく聞こえるが車の荷台へと持ち上げるのにもそれほど苦労はない感じ。また折り畳みの手順は、シート高を縮めて、ハンドルやペダルを折り畳んだら、アルミフレームのロックを外して二つ折りにする。
動力を切って漕いでもペダルが軽いスズキのイーポ
続いてe-POの電源をオフにしてペダルを漕いで走ってみた。まぁ、バッテリーが切れた場合などを想定した走行テストである。
驚いたのは漕ぐ際のペダルの軽さ。筆者はエンジン付きのモペッドや、タイヤをローラーで回して走るモペッド、ホンダのF型カブなどの試乗経験があるが、ペダル付きモペッド全般に言えることは動力をオフにして漕ぐとペダルが異様に重く、自転車としては使えない乗り物になっていることが多い……というか試乗した全てのモデルが大なり小なりそんな印象だ。自転車にエンジンを後付けするホンダのF型カブにしても、押しがけの要領でエンジンを始動させるためにペダルを漕いでスピードに乗せるという感じで、決してペダルを漕いで走る乗り物にはなっていなかった。
一方このe-POは、十分自転車として使えるペダルの軽さなのだ。まぁ元々が折り畳み自転車なのでそれほどスポーティな走りをするための乗り物ではないのは確かだが、ギヤも7段変速で十分自転車として使える雰囲気。
ちなみにe-POは原付一種のためペダルを漕いで走る際もヘルメットの着用と運転免許証の携帯などが義務付けられ、“電源をオフにしているから自転車”という理屈は通用しない。ナンバーを付けて走っている時点であくまで原付一種なのだ。e-POを自転車(軽車両)として走らせる場合には、国が認めるナンバーを隠すなどの装置を付けて車両区分を切り替えるモビリティチェンジ (通称:モビチェン)が必要となる。
イーポは“モビチェン”して自転車としては乗れないのか?
“e-POは電源を切っていれば自転車として乗れるのか?”。この問いに対する答えは“現在のところ”NOだ。“現在のところ”なんてまどろっこしい書き方をしたのは、法律的には現在でも可能で、すでにそんな乗り物も世の中に出回りはじめているからだ。
また一部の二輪メディアが報道しているとおり、スズキとしては、e-POのナンバーを隠して自転車化する“モビチェン”のためと思われる装置の特許申請もしている。
実際、e-POが発売されるとなった場合に、“モビチェン”が可能で、フル電動自転車の「原付一種」としても、動力カットしての「自転車(軽車両)」としても使うことができたら相当便利そうなのだが、このあたりはいったいどうなのだろうか?
今回、e-POの開発を行なったチーフエンジニアの福井さんにお話を伺うことができたのでその辺りの疑問をストレートにぶつけてみた。
バイク雑誌のヤングマシンさんがe-POの“モビチェン”に関する特許をすっぱ抜いてましたが、実際e-POが発売される際に“モビチェン”可能な乗り物として登場する可能性はあるのでしょうか?
私どもとしても、当然そういう(“モビチェン”する)可能性は残しておきたいと思っていますし、将来的な選択肢のひとつとしては考えています。というのも今回e-POを開発するにあたって、原付一種の電動モペッドや電動キックスケーターのユーザーの方にお話を聞かせていただいたのですが、免許の必要ない特定小型原動機付自転車の区分ができてから、ちょっと秩序が乱れているという印象を持ちました。
特例特定小型、特定小型ともに無免許で乗れてしまうようになって、ルールを知らずに歩道を走ってしまう方がいたりして、危なくなったと?
今はまだ、車両区分をしっかり理解されている方がとても少ないという状況ですね。悪気があって違反している人は少なく、“知らなかった”という人が大半のようです。免許いう資格を持っていない方が乗ることが多い分野の乗り物ですので、この現状がある程度続くのは仕方がない部分だとも考えています。
つまり交通環境の秩序が乱れている間は、e-POを“モビチェン”できる車両として売るには時期尚早だというわけですね?
特定小型などの車両区分が社会的に認知されてるまでは、スズキとしては(“モビチェン”できる車両として売るのは)まだ早いのではないかと思っています。
現在はまだ交通社会の方が追いついてないという感じで、ゆくゆくは“モビチェン”できる乗り物としてe-POが登場することもあり得るわけですね!
もしイーポが“モビチェン”できたら都市部の駐輪場不足が一挙解決するかも!?
現段階では、原付一種(〜50ccのバイク)として開発が進んでいるe-POではあるが、もしモビチェンして“自転車としても”走ることができるようになれば、自転車専用レーンやサイクリングロード、自転車の走行が認められた歩道を走ることができる。またバッテリー切れなどの際にはヘルメットを脱いで身軽になって漕ぐことも可能だ。
そしてなにより既存の駐輪場が利用しやすくなる。モビチェンしていれば自転車専用で“バイクお断りな駐輪場”も利用できるので、二輪業界が直面している駐輪場不足の解決策にもなる可能性があるのだ。
まぁ、とにかくモビチェンできれば乗り物としての特性が大きく変化して、原付一種がより使い勝手の良い乗り物になるというわけ。ぜひ利用環境のよりよい成熟と、スズキe-POの“モビチェン”可能な乗り物としての発売に期待したい。
e-PO(公道走行テスト車) の主要諸元
●全長/全幅/全高:1,531mm/550mm/990mm
●装備重量:23kg(バッテリー込み)
●ホイールベース:1,044mm
●シート高:780-955mm
●モーター形式:直流ブラシレスモーター
●定格出力:0.25kW
●変速機方式:外装7段シフト
●バッテリー(NKY594B02):25.2V-16Ah(リチウムイオンバッテリー :約2.5kg)
●充電時間:約5.0時間
●走行可能距離:漕がない状態で最低20kmを想定して開発中
●価格:発売未定(ベースのパナソニック オフタイムは158,000円/税込)