中古車はミズモノ。世の中にはそう感じている人は大勢いるだろう。しかし、レッドバロンの車両にはそうした概念は当てはまらない。なんといっても同社は、他店とは一線を画する万全の点検・整備態勢を整えている上に本社工場には膨大な数の補修部品をストックして、店頭販売車両の整備はもちろん、きめ細かなアフターサービスにも対応しているのだから。
新車時の性能を維持する
独自の譲渡車検取得車
中古車の魅力と実情が理解できる企画として、レッドバロンは10年前から毎年初夏に〝メディア向け説明会〟を開催している。ここ数年の舞台は那須モータースポーツランドで、同社の譲渡車検取得車と整備不良車の比較+多種多様な絶好調車の試乗が定番だったのだが、今回は開催場所を愛知県岡崎市に移し、従来の試乗企画は短めに設定して、残りの時間を久しぶりの本社工場見学に割り当てた。
まずは試乗での印象を記すと、中古車を視野に入れることで、バイク遊びの選択肢は無限に広がるのだな……と改めて実感させられた。中でも心を動かされたのは、RGV250Γ、ZRX1200DAEG、CB400SFの3台で、往年の2ストVツインレプリカと伝統の並列4気筒を搭載するツインショックネイキッドは、現行車では味わえないフィーリングを堪能させてくれたのだ。
そしてそんな気持ちになれたのは、それら試乗車がレッドバロンの譲渡車検取得車だからだと思う。コロナ禍の影響でバイクに注目が集まっている昨今では、下取り車をそのまま右から左へという姿勢の中古車販売店/業者が乱立し、結果的に整備不良の中古車が増えているのだが、レッドバロンの姿勢は昔から一貫していて、各店で万全の整備態勢を整え、本社工場には膨大な補修部品をストックしている。だからこそ、各車の本来の性能がきっちり堪能できるのだ。
外観からはまったく判別できない
譲渡車検取得車と整備不良車の違い
新車時の性能を維持する譲渡車検取得車と比べると、キャブレターの不調とリヤショックの抜けという問題を抱えたもう1台は明らかに乗りづらかった。そしてこの2台を体験したことで、改めて中古車選びの難しさを認識。その理由は、整備不良車だって乗れないことはなかったからである。おそらく、好調のホーネットを知らない人が整備不良車に乗ったら、“こんなものかな?”と誤解するんじゃないだろうか。
膨大な台数の部品が平然と並ぶ
圧巻のストックヤード
噂には聞いていたけれど、まさかここまでとは……。今回がレッドバロン本社工場の初見学の機会となった僕はその最中、終始感心させられっぱなしとなった。
その最大の理由は、補修用中古部品のとてつもない保有数。具体的な数字を書けば、3万3000㎡という広大な敷地面積の同社工場内には、なんと3700機種・76万点以上ものパーツがストックされている。しかもすべての中古部品は車体から取り外しただけではなく、一品一品入念な点検を行い、モノによっては修理や加工といった再生作業を実施。それら点検・再生を受けたパーツは、同社独自の保管ラベルを貼った状態で管理されているので、メーカー純正部品のように、全国のレッドバロンから発注を受けた際は迅速な対応ができるのだという。
ちなみに、ゼファーやZRX、CB-SF、ハヤブサ、SR、ホーネット、バリオス、NSRなどの人気モデルには、さまざまな部品を一カ所に集めた車種専用の巨大な棚が設けられて、それらがズラリと並んだストックスペースの眺めは圧巻。もちろん、専用の棚がない車両でもストックは相当に豊富で、同社が保証付きで販売している車両であれば、パーツに関する心配は一切不要なのだ。念のために記すが、同社が所有するこれらのストックパーツはレッドバロンで車両を購入した会員用のもので、一般には販売していない。
膨大な台数の部品取り車と、車両の解体前に行う点検作業
工場内に並んだ部品取り車の一群。パッと見ではそのまま中古車として売れそうな雰囲気だけれど、いずれの車両も何らかの問題を抱えている。
解体前に各部の作動状況を点検中。メカニックの作業が終わったら、ACIDMを用いて測定。
見学者用の展示として、解体部門の手前にはドンガラ状態のVMAXが置かれていた。奥の棚には車体から取り外したパーツがズラリと並んでいる。
入念な検品・研磨作業を経て、独自のシステムで管理される
分解した部品をそのままストックするのではなく、レッドバロンではすべてを検品。燃料タンクやフェンダーは汚れを落としたうえで、徹底的に磨き上げ、場合によっては補修も行う。
見学者用として展示されていた、ホーネット用のパーツ群。いずれも作動状況は確認済みだ。
検品を終えたパーツはすべて梱包。その上で、同社独自の保管ラベルを貼り管理される。
全国の店舗から作業依頼が届く
多種多様なエンジンまわりの作業に対応
エンジンの整備や修理はレッドバロン各店でも行うが、時間のかかる重作業などに対応するため、本社工場にはエンジン補修に特化した部署が存在。ここでは国内外のメーカーを問わず、あらゆるエンジンまわりの作業が行われる。バルブシートカッターやボーリングマシンといった加工機械まで設置。
2輪のペイントを熟知した職人が純正カラーを見事に再現!
レッドバロンの本社工場で行うリペイントは、純正色の再現度がとてつもなく高い。その理由は、センサー+パソコンを用いたAI調色に依存せず、経験豊富な職人が色合わせを行ってるからだ。カワサキのライムグリーンを例に取れば、車種・年式によって微妙に色合いが異なるため、これまでに行った調色は40種類以上に及んでいる。
多岐に渡る修復と整備で
本来の性能を回復させる
続いて感激させられたのは、中古車の品質を高める作業環境だ。レッドバロン各店が中古車を下取りした際に、独自に開発した『コンピュータ総合診断機ACIDM(アシダム)』で各種測定を行い、納車前に84項目の点検整備を行っていることはご存じの読者も多いだろうが、本社工場では一般的な整備を超えた本格的なレストア作業が行われていた。工場内にはエンジン/キャブレター/リヤショックのオーバーホール、ノーマル塗色を忠実に再現したリペイント、シートの張り替え・ウレタン加工ができる設備が整っているのだ。
いずれにしても、同社のパーツのストックと点検・整備環境は、一般的な中古車販売店とは次元が異なっている。おそらく、中古車の性能回復と維持にここまで真摯に取り組んでいるのは、世界で唯一、レッドバロンだけだろう。
もちろん、日本全国に展開する306の店舗でメンテナンスの情報を共有していることや、グループ全体の中古車在庫数が常時4万1000台前後で、どの店舗からでも『イントラネット検索システム』を用いて希望に沿った車両を探せること、購入後は全店で同様のサービスが受けられることなども、同社ならではの魅力だ。
中古車はミズモノ。世間ではそうした話をよく聞くけれど、レッドバロンの中古車には当てはまらない。今回の取材を通して、その事実を改めて実感させられた。
独自に補修パーツを準備することで純正リヤショックの性能を回復
純正部品の設定がないため、世間で難しいと言われている純正リヤショックのオーバーホールも、レッドバロンではシール類を筆頭とする補修パーツを独自に準備することで、対応できる環境を完備している。減衰力の状況を測定してグラフ化するダンピングテスターは、同社のオリジナルだ。
劣化が進んだ負圧式キャブレターでも、再生は十分可能
同社が扱うキャブレターの主役は、’80年頃から本格的な普及が始まった負圧式。この写真はメインボアの流量の差異を測定しているところだ。
長年の使用で変形したバタフライバルブは、オリジナルの補修用に交換。サイズは多種多様に揃う。
キャブの補修例。フロートピンの支柱の破損は右から順に修復が進む流れを見せる。バイパスパイプやアタッチメントは独自に部品を製作。
新品のレザーを導入することでルックスと快適性が大幅に向上する
保管状況が悪かった中古車は、シートが劣化していることも少なくない。この問題を解消するべく、同社はレザーを独自に製作。なおレザーは高周波溶着機を用いた型押し、ウレタンに関しては補修・加工も行う。エアタッカーを用いた張り込みは、職人の技術を必要とする作業なのだ。
補修パーツが整然と並ぶ、車種専用の巨大な部品棚
ホーネット用の部品棚を眺める。目印として置かれた車両の左横には10機以上の同車用エンジンが並び、上部には電装系や排気系、足まわり関連など、多種多様なパーツが整然と収められている。本社工場にはさらに、エンジン、リアショック、メーター、オルタネーターなど、各部品を集めたストックヤードも別に存在するのだ
掲載誌:Heritage&Legends
Report:中村友彦 Photo:富樫秀明