野口英康さんが率いるモータリストは、イタリアのFANTIC(ファンティック)やLAMBRETTA(ランブレッタ)、台湾のSYM(エスワイエム)など、海外ブランドのモーターサイクルやスクーターを日本国内で取り扱う企業。創業からわずか約1年半ながら、手がける車両ブランドを精力的に拡大している。
2022年、モータリストとして初めて東京および大阪のモーターサイクルショーに出展。“ライダーのおもちゃ箱”みたいなその世界観に、多くの来場者が驚かされた。ここでは「FANTICを中心としたヨーロピアンモーターサイクルと、モータリストが挑む先進的な取り組み」と題して、モータリストが扱うブランドの一部を紹介していこう!
そもそもモータリスト……とは?
日本国内で、海外ブランドのモーターサイクルやスクーターを数多く取り扱うモータリスト。野口英康代表は、これまでモータリストで取り扱ってきたバイクに共通する特徴を、「ヨーロッパで高く評価されていて、“価格ではない価値”を持つところ」と話す。 小排気量車だから廉価だとか、ブランドがプレミアムだから価格も高いなど、従来のヒエラルキーから一度離れて、それぞれの製品に適正なバリューを用意し、それに見合う価格を設定。その結果、価格以上の価値が感じられるモデルや、逆にこれまで小排気量クラスの量産市販車ではあり得なかったほどハイエンドなモデルなど、従来の価値観にとらわれない製品展開に力を注いでいる。
モータリストとして初出展となったモーターサイクルショー2022
2020年創業のモータリストにとって、3年ぶりの開催となった2022年の大阪・東京モーターサイクルショーは、初めて大きなショーに出展する“デビューの場”となった。そのため、新製品を披露するとか、各ブランドのラインアップを紹介することよりも、「モータリストとは何者で、どんな人たちがいて、どのようなことをしている会社なのか?」ということを知ってもらうことをテーマにブースを展開した。
とはいえ、すでに車両だけでも7ブランドを抱えることになった新進気鋭のモータリスト。各ブランドの車両を少しずつピックアップして展示しただけでも、あっという間にスペースは埋まる。結果的にブースには“ごちゃごちゃ感”が生まれ、それがまたバイクで遊ぶことを心から愛する人たちの集合体であるモータリストを表現するのにとても合っていたのだ!
モータリストが扱うイタリアのFANTICとは?
1968年、イタリア北部のバルザゴで創業されたのがFANTIC(ファンティック)。いわゆるスクランブラーモデルの生産から歴史を刻みはじめ、モトクロスやエンデューロやトライアルのジャンルに進出。競技にも積極的に参加し、そこで培った技術を市販車にフィードバックしつつ、高品質で高性能なバイクを開発してきた。
トライアル世界選手権では1980年代に3度チャンピオンに輝き、1981年にISDE(インターナショナル・シックス・デイズ・エンデューロ)で最高位のワールドトロフィーを獲得するなど活躍。しかし会社経営を誤り、1995年に工場が閉鎖された。その後、2005年に復活して再びオフロードを舞台に活躍するも、2014年に再度倒産。イタリアの投資家グループによって救済され……と、紆余曲折の歴史を持つブランドだ。
現在、そんなファンティックの主力ラインアップとなっているのがキャバレロシリーズ。イタリアンデザインのスクランブラーやフラットトラッカー、専用のアルミスイングアームなどが与えられたラリー/エクスプローラー500もラインアップする。 その他、ピュアオフロードモデルのXEF250/125なども展開するが、共通するのはあくまでもストリートユースにフォーカスした、先鋭的になりすぎない設計思想。一方で、e-bikeやeスケーターなど、将来を見据えた電動化や脱酸素化への取り組みも着実に進めているブランドなのだ。
モータリストが新たに扱うTORROTとは?
TORROT(トロット)社は、スペイン北部のジローナを本拠地として、1948年にイリオンド社として創業した歴史を持つメーカー。当初は自転車を中心に製造していたが、1950年代に入ってフランス・テロット社のライセンスを取得して、モペッドやモーターサイクルの生産を開始した。
ところが、テロットを買収したフランスのプジョー社が工場を閉鎖。これによりブランドが消滅したため、イリオンドの社名を変更してトロットというブランドを創設し、以降は自社設計による美しいモペッドやモーターサイクルを製造してきた。1970年代にはオーストリア・ザックス社のエンジンを搭載したモペッドをデザインして高評価。しかし1990年代を乗り切れずに倒産した。 その後、2011年にブランドを購入・再生させたベンチャーが、GASGAS部門も傘下に収めて、ガスガスの持つトライアルバイクに電動モーターを投入。電動トライアル世界選手権のチャンピオンを獲得するなど、新生トロットは電動モーターサイクルの先駆者としてその技術を高めた。ただし親会社はその後にガスガスブランドをKTMに売却し、電動モーターサイクル事業のみを存続している。
モータリストがオリジナルバイクを開発・販売!?
これまで輸入代理店として活動してきたモータリストは、2022年のモーターサイクルショーでオリジナルの電動バイクを市販することを発表。そのプロトタイプを公開した。
展示されたのはオフロードモデル2機種とストリートモデル1機種。いずれもモータリストが企画し、中国のパートナー企業と開発を進めて商品化させたODM(Original Design Manufacturing)モデルだ。モータリストでは、「近い将来必ず訪れる脱炭素化の波に備え、モータリストの商品を販売する販売店が商品の先細りによってビジネス機会を損失することがないように、長期的視野に立って商品の供給を検討してきた」という。
ODMの相手先は、中国・重慶に本社を構える「威利科技実業有限公司」。モータリストは、長年にわたり蓄積してきた豊富なモータービークルの知識と、開発や製造技術への知見を活用しながら、パートナー企業を模索してきた。求める条件をクリアしたことから、今回のパートナーシップに至ったという。 ちなみにモータリストの野口代表は、自他ともに認めるバイクオタクで、筋金入りの内燃機好き。それだけに、「バイクの楽しさを損なわない、でも一歩先の未来に足を踏み入れたいライダーに最適な、新感覚のモーターサイクルを販売していきます!」と意気込む。
たくさんのモデルから各ブランドの注目車種を紹介!
FANTIC
Caballero Exproler500
スクランブラースタイルのキャバレロをベースに、ストロークが長い前後サスペンションやアルミ製スイングアームなどを換装し、オフロード性能を高めたのがラリー500。2022年初登場のエクスプローラー500はその発展形で、荷台面がシートと同じ高さに合わせられたリヤキャリヤ、小ぶりなタンクバッグ、パイプ製のエンジンガードを標準装備することで、さらに冒険向きの仕様に仕上げてある。 他のモデルと共通化された449cc水冷単気筒エンジンは、最高出力38.5馬力を発揮。前後サスはプリロードに加えて減衰力の調整機構も備える。車体色は専用のツートーン。2022年5月に生産開始予定で、すでに予約受付が開始されている。
価格■140万円
TORROT
MOTOCROSS ONE/TWO
トロットの日本向け製品はモトクロス、スーパーモタード、トライアルの3タイプが用意される。いずれも、モーター出力や前後ホイール径が異なるONEとTWOの2タイプ展開だ。
このうち、キッズ入門用としてとくに注目を集めそうなモトクロスは、ONEが3~7歳向け、TWOが6~11歳向けの目安。前後10インチホイールのONEはモーター出力が350~1050Wで最高速が32km/h、前後14/12インチホイールのTWOはモーター出力が600~1500Wで最高速が40km/hとなっている。いずれもブレーキは前後ディスク式で、回生システムも搭載。Bluetoothとスマホアプリを介して、パラメーターの設定やペアレンタルコントロールが可能だ。48V/6.6Ahリチウム系バッテリー(LiNiCoMn)は、専用充電器により約4時間で満充電できる。
価格■39万6000円(ONE)/49万5000円(TWO)
MOTORISTS
VMX12
モータリストオリジナルとして販売予定の電動モトクロッサー。大容量のLG製リチウムイオンバッテリーを搭載し、モーター出力は12kWの高出力。「スロットルひとひねりで、125㏄エンジンバイクと同等のトルクを一気に湧きあがらせる」という。電動だが、ボトルニュートラル式の4速トランスミッションと、マニュアル式のクラッチを備えるのがポイント。これにより、モーターサイクルならではの操る楽しさと、オフロードにおける自在性を獲得している。しかも、モーター駆動の電動バイクなので、クラッチを切らずに停止しても“エンスト”することはない。電動ならではのデザイン自由度を活かして設計されたフレームと、これに合わせた外装類は、他にはない斬新なルックス。実際にモトクロスコースでテストした結果、10分のウォームアップと30分×2本のレースを走らせても、なおバッテリー残量がある状態とのことだ。公道走行用にホモロゲーションキットも別売予定!
予価■66万円(急速充電器付き)
モータリストに垣間見る「ヨーロピアンモーターサイクルと先進的な取り組み」とは?
例えば現在のファンティックは、普遍的でありながら個性が際立ち、長く楽しめるデザインと先進的すぎない性能や機能を特徴とするブランド。“新しさ”ではない部分に価値がある。これは、モータリストが取り扱うランブレッタにも共通する要素だが、それらの“変わらない”大きな柱があるからこそ、モータリストは電動という“新しくて社会的動向が不透明なカテゴリー”にも積極的に取り組んでいけるのだろう。
不変と先進。両方向にベクトルを放つモータリストは、“バイクが好き”というシンプルな思想のもとで、まだまだこれから飛躍しようと力を蓄えているのだ。