ライダーにとって愛車のカスタムはバイクライフを彩る楽しみのひとつ。自分に合うハンドルやシートへの交換から、塗装まで含めたフルカスタムまでバリエーションはさまざま。そしてカスタムとひとくちに言ってもスタイルも多種多様で、愛車本来のスタイルとの好みのスタイルとのマッチング次第で今以上にカッコよくもなります。
そんなカスタムスタイルのなかから、今回は「チョッパー」と呼ばれるカスタムスタイルについてご紹介します。
チョッパーカスタム
チョッパーとは
チョッパーとは、アメリカンバイクのカスタムスタイルの呼称で、「削る、削ぎ落とす」などの意味を持つ英語の「Chop」(チョップ)が語源と言われています。古くは1950年代アメリカにおいて、盗難したバイクが持ち主に見つかっても分からないほどあらゆる部位のパーツを取り外したことがチョッパーのはじまり–––なんて逸話もありますが、本当のところは分かりません。ただ「無駄なパーツを削ぎ落とす」ことが原点となり、それが1960年代、1970年代のアメリカの文化に彩られ、アートの域でそのスタイルを確立してきました。
チョッパーカスタムの代名詞
インターネットで世界と繋がり、SNSを介してさまざまな情報が手に入れられる現代とは環境が大きく異なった1960年代、世界の流行を掴むための情報源は生まれたばかりのテレビであり、映画、そしてラジオでした。東西冷戦の真っ最中でベトナム戦争の勃発やジョン・F・ケネディ大統領の暗殺事件、宇宙開発競争の激化、反戦運動に端を発するヒッピー文化の広がりなど混沌としたこの時代、チョッパーバイクの世界観を確立した映画が登場するのです。それが1969年公開の『イージー・ライダー』(原題:Easy Rider/日本公開は1970年)。
自分の姿を見失ったアメリカという広大な国を ふたりの自由な男がハーレーダビッドソンとともに走りゆくこの映画は、銀幕を通じて”アメリカの自由な姿”を世界に発信しました。それまでアメリカの中だけにとどめられていたチョッパーカスタムというスタイルそのものが知られることとなり、星条旗が描かれたチョップドパンヘッド”キャプテン・アメリカ号”は若者の憧れの象徴として、チョッパーバイクの頂に君臨することとなったのです。
結果的にキャプテン・アメリカ号がチョッパーカスタムを定義づけた、と言えます。次の項目からご説明する「チョッパーカスタムの特徴」は、このキャプテン・アメリカ号の特徴をなぞっている内容でもあります。
チョッパーカスタムの特徴
一般的にチョッパースタイルと呼ばれるカスタムバイクに採用されている特徴的なディテールをご紹介します。
①ナローなスタイル
無駄を削ぎ落とすカスタムであるチョッパーが目指すところは、大きなバイクを小さくまとめることにあります。方法論はさまざまながら、よりナロー(細く)に見せることが求められるわけです。
フォーク幅はグッと絞られたスタイルとなり、フューエルタンクやエアクリーナーなど各ディテールも可能な限りコンパクトに。リアフェンダーもショート化され、フロントフェンダーに至っては取り払われもします。ハンドル周りも「配線があればあるほど美しくない」という理由から余計な部分が取り除かれ、良い意味ですっきりとしたコックピットに仕上げられます。結果、チョッパーはとことんナローなスタイルを煮詰めたものとなるのです。
②リジッドフレームかツインショック
1930年代後半にはBMWバイクに搭載されるようになったリアサスペンション。ハーレーダビッドソンがリアサスペンションを採用するようになったのが1950年代に入ってからで、それまではサスペンション構造を持たないリジッドフレームがスタンダードでした。チョッパーカスタムにおいて、リアサスペンションの有無はあまり関係ありません。あくまで世界観の違いがあるのみで、ハーレーダビッドソンのソフテイルモデルに採用されているリジッド型ソフテイルフレーム(シート下にモノショックシステムを採用しているリジッド形状の最新フレーム)はこの1950年代以前のハーレーのオマージュなので、チョッパーカスタムが似合う近代バイクと言えます。
③エイプハンガー
『イージー・ライダー』のキャプテン・アメリカ号にも採用されているこの形状のハンドルバーは、まるで猿が木からぶら下がっているようなスタイルになることから「エイプハンガー」と呼ばれています。その特徴的な形から、チョッパーカスタムの必須項目とまで見られるように。
しかしながら、チョッパーカスタムの目指すところは「無駄を削ぎ落とした美しいスタイリング」なので、エイプハンガーを備えることはマストではありません。よりコンパクトに、という意味では、この写真のようなハンドルバーでもチョッパーの範疇に含まれるのです。大事なのは、どれだけチョップできているか、ということですね。
④スプリンガーかテレスコピック
スプリンガー(もしくはガーターフォーク)かテレスコピック、チョッパーカスタムではこのいずれかがフロントフォークに選ばれます。スプリンガーフォークは1940年代までハーレーダビッドソンが採用していた当時もっともポピュラーな構造のフロントフォークで、1950年代より油圧式のテレスコピックフォークへと変わっていきます。どちらを選ぶかはライダーの好み次第。ちなみにスプリンガーフォークは現在のアメリカの交通法規では新車への採用が不可となり、メーカー販売モデルとしてはハーレーダビッドソン2009年モデルのFLSTFB ソフテイル・クロスボーンズが最後のモデルとなりました。
キャプテン・アメリカ号に見られるとおり、チョッパーカスタムではフロントフォークを長くするロングフォークスタイルも見どころのひとつです。安全性という観点からは大きくかけ離れたスタイルですが、個性という点では唯一無二の存在感を放つディテールだと言えます。
ホイール径を大きくするのもチョッパーカスタムのポイント。キャプテン・アメリカ号のベースモデルであるFLパンヘッドのホイール径は前後16インチでした。キャプテン・アメリカ号はそのホイールを21インチまで大きくしています。21インチというホイール、現代だとオフロードバイクでしか見かけることがないサイズですが、ナローなスタイルにロングフォークと大径ホイールを備えるのがチョッパーカスタムのマナーでもあったのです。
⑤スーサイド
「スーサイド」(suicide)は「自殺」を意味する英語。チョッパーカスタムにおけるスーサイドは、フロントブレーキを取り外した無謀なカスタムを指します。ブレーキはリアのみという、進化が著しい現代のオートバイでは考えられないスタイルですが、削ぎ落とすカスタムの行き着いた先がノーフロントブレーキという選択肢なのです。
例えビンテージバイクでも推奨できるものではありませんが、チョッパーカスタムに挑むライダーのなかにはスーサイドを選択する猛者もいる、という程度でお留め置きください。
チョッパー向きなバイク
チョッパー文化発祥の国アメリカのモーターサイクル「ハーレーダビッドソン」にはチョッパーカスタム向けのモデルが多く揃っています。現行モデルの中からだとソフテイルスタンダード、ストリートボブ、ローライダーS、スポーツスター・アイアン1200ですね。ヤマハSR400(SR500)やカワサキW650・W800をチョッパースタイルに仕上げるライダーも多いところ。その他、ホンダ・スティードやヤマハ・ドラッグスターなどの国産アメリカンモデルにもチョッパーカスタムはよく似合います。
国産チョッパーといえば、すでにラインナップからは姿を消していますがホンダがドロップしたVT1300CXには度肝を抜かれました。まさかあのホンダが、こんな大胆なバイクを世に送り出してくるとは。もちろん北米市場での販売を主眼に置いた製造・販売ではありましたが、これ以上ない異端モデルとしてホンダの歴史に刻まれたことは間違いありません。私も一度試乗したことがありますが、見事なチョッパースタイルなのに過不足ないライドフィールとストップ&ゴーでの安定感と、さすがホンダという一台でした。
現行モデルからはなくなりましたが、ハーレーダビッドソン・スポーツスターXL1200V セブンティーツーはもっともチョッパーカスタムが熱かった1970年代アメリカのロードシーンに見られたチョッパースタイルを投影したモデル。ファクトリーカスタムモデルにしか採用されない21インチフロントホイールにホワイトリボンタイヤ、うずたかく持ち上がったエイプハンガー、コンパクトなフューエルタンクとチョップドリアフェンダー、そしてギラリと光るクロームメッキ仕様のエボリューションエンジンと、解説したチョッパーのディテールをふんだんに盛り込んだモデルです。パワフルな1,202ccVツインエンジンなのでスーサイドカスタムはおすすめしませんが、ほんの少し味付けするだけでオーナー色に染め上がる一台だと言えます。
まとめ
「自由とは何か」を探し、彷徨い続けた激動のアメリカから生まれた答えのひとつとも言えるスタイル、チョッパー。ご説明した特徴が盛り込まれているものの、それはあくまで作法に定義づけられるもので、「よりナローに、より無駄なく」を目指したスタイルなら、広義な意味でのチョッパーカスタムとして楽しめるかと思います。人生と同じく、無駄なものを削ぎ落とすチョッパースタイルに興味を持っていただけたなら幸いです。