MotoGP 2022シーズンに参戦するドゥカティのワークスチーム「ドゥカティコルセ」が、イタリアの工業用3Dプリンターメーカー Roboze と提携を結び、ただいま開催中のMotoGP 2022シーズンに投入されているレーサー・デスモセディチGPのフェアリングおよび耐熱セクションパーツを開発。すでにマシンに投入されています。
ついにワークスが3Dプリンター製パーツを採用
市販車ベースのレース「世界スーパーバイク選手権」2019シーズンに参戦した「カワサキ・プッチェッティ・レーシング」が、カワサキ ニンジャ ZX-10RRのカーボンファイバー製フェアリングを工業用3Dプリンターで製造したことが驚きをもって報じられましたが、今回のニュースはレース用に開発された専用マシンが集う世界最高峰のバイクレース「MotoGP」(ロードレース世界選手権)で、しかもドゥカティのワークスチーム「ドゥカティコルセ」が開発・採用したというので大きな話題を呼んでいます。
大きく取り上げられる理由は、強度面に不安要素がある3Dプリンター製パーツをメーカーが採用したことにあります。前述のとおりMotoGPは世界最高峰のバイクレースという、世界でもっとも過酷で極限状態とも言える速度域で繰り広げられるレースです。マシンを構成するパーツ類に求められる強度は市販車以上で、今なお各バイクメーカーが市販車に3Dプリンター製パーツを採用していないことから、こと安全性という面で踏み切れない諸事情があったのです。
高強度を約束する新素材と確かな3DP技術
2014年、イタリア南部の都市バーリで創業した3Dプリンターメーカー Roboze は製造業の効率化を目指し、最終部品として採用可能なクオリティの製造物実現に向けてスーパーポリマーや3Dプリンター機器を手がけてきた実績の多い企業です。イタリアの国防省の下請業者であるLeonald社から3Dプリンターを用いた航空宇宙部品の製造を請け負っているなど大きな実績を持っており、MotoGPという極限状態でも高い強度と耐熱性を保証するパーツ製造は Roboze にとってももっとも得意とするところであり、また大きな挑戦にもなるプロジェクトなのです。
Robozeが誇る超硬質熱可塑性プラスチック「スーパーポリマー」の最新版は、カーボンピークやカーボンPA、ピーク、ULTEM AM9085Fといったこれまでの材料をベースに大きくバージョンアップしたもの。2021年10月にはリサイクル可能な3Dプリンターパーツを生み出すサーキュラーエコノミープログラムを発表するなど、環境面に配慮した取り組みも進めています。
3Dプリンターを用いるメリット
既存の製造方法ではなく3Dプリンターを用いるメリット、それはコストとリードタイム(製造期間)を大幅に削減できること。この事実は世界中の誰もが知るところですが、その反面 強度面への不安が残る試みでもあり、実際世界のバイクメーカーにおいても自社内に高精度な業務用3Dプリンターを取り入れていても、試作品どまりで最終部品としての採用には漕ぎ着けられずにいました。
今回の一報は、メーカーが有するワークスチームが最終部品としてレーサーに用いたという世界初とも言える取り組みで、ドゥカティコルセから公式な発表はされていないものの、Roboze とのプロジェクトが確かに存在し、実際に最終部品としてデスモセディチGPに用いられることとなった事実は変わりません。
Roboze とともにこのプロジェクトを立ち上げたドゥカティコルセ デザインマネージャーの Riccardo Savin 氏はその手応えについてこう答えています。
「Roboze の3Dプリンティング技術のおかげで、信じられないほどの空力性能を備えたパーツをスピーディに生産することができるようになった。私たちは Roboze との技術的パートナーシップに非常に満足しており、この素晴らしい結果を踏まえて、これまで以上に彼らの技術の使用を増やすことを計画しています」
市販車へのフィードバックはあるか
デスモセディチGPをはじめ、MotoGPに参戦しているマシンはいずれも市販車ベースとは異なりますが、世界でもっとも過酷なバイクレースを戦うマシンの技術や経験が市販車にフィードバックされるのはこれまでと変わりません。ワークスチームの試みとなれば、より直接的に影響することが想像されます。
一般公道で市販車が担うもの以上の負荷がかかるレースでその強度や耐久性が実証されれば、同じ技術が市販車にも用いられるようになり、生産速度のアップやコスト削減がもたらされれば、それは販売価格が抑えられることにも繋がります。ABS(アンチロック・ブレーキング・システム)など 近年ではバイクの安全性を保つためにさまざまな機器が標準装備されるようになり、価格・重量とも高まる傾向にありますが、この取り組みがバイクという存在をより身近にしてくれる可能性を秘めていると言えるでしょう。
米自動車メーカーのFORD社は、自社製品(自動車)のアクセサリーパーツの3D CADデータを無償配布し、全世界の正規ディーラーや業務用3Dプリンターを用いる企業で製造できる仕組みを発表しました。つまり「このパーツが欲しい。でも在庫がないから注文しなきゃいけない。到着まで1ヶ月かかる」というこれまでの状況が、「3D CADデータがあるんでここで作っちゃいますね」とその場で製造できるようになったのです。ドリンクホルダーなど簡易製品のみが対象ですが、いずれはクルマそのものに使えるパーツ類も現場で製造できる日が来るかもしれません。それも比較的安価に入手できるようになるかも。
公にはなっていない各バイクメーカーやバイクパーツメーカーの3Dプリンター活用の加速化につながることでしょう。最新のバイクへの3Dプリンター活用事例は入手次第お届けしていきます。