北海道・十勝は「これぞ北海道」という光景が続く、ライダーにとって天国のようなエリアです。そんな十勝でツーリングの途中に立ち寄りたいのが「とかち大正二輪館」です。展示されているバイクはビンテージバイクばかり約170台。しかもすべて個人の所有物というから驚きです!
魅惑の二輪館を紹介しましょう‼︎
外観はドライブイン!? 国道236号線沿いの私設博物館
「とかち大正二輪館」は、帯広市郊外の大正という集落にあります。何の変哲もない燃料店に「懐かしのバイクモーター展示館」の看板が掲げられ、蝶を誘う花のように、ライダーを惹きつけています。知られざる「とかち大正二輪館」に潜入を試みました。
大正地区は「愛の国から幸福へ」で一世を風靡した旧国鉄・愛国駅と幸福駅の中間にあります。この二つのイメージが強いせいで、「じゃない方芸人」のような隠れたエリアなのです。ライダーやチャリダーに人気の無料宿泊施設「大正カニの家」から徒歩5分、スキップで3分、匍匐前進で10分の国道236号線沿いに立地しているので、見逃すことはないでしょう。
とかち大正二輪館は、牧野燃料店に併設されています。館長の牧野昌徳さんは、燃料店を営みながらバイク好きが講じて私設博物館を運営しているそうです。事務室から素敵な女性が出てきて「観覧しますか」とのお誘いが。500円の入館料を払って、扉を開けました。
「なんじゃこりゃ!」(ジーパン刑事調)
恐る恐るドアを開けると、倉庫らしき空間に、所狭しとバイクが並んでいます。いわゆる「名車」ではなく、クラッシックというか、ビンテージというか、古いというか、ボロいというか、その類がゴロゴロ。なかなかお目にかかれない逸品が揃っています。
かつての愛車、カワサキGPZ400Rに迎えられました。バイクブーム真っ只中の1985(昭和60)年に発売。ホンダがCBR、ヤマハはFZR、スズキはGSX-Rなど、数々のレーサーレプリカをリリースする中で、大柄な車体にセンタースタンドや荷かけフックを装備したGPZ400Rは、異色の存在でした。カワサキ初の水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒エンジンを搭載し、徹底的に空気抵抗が研究され、空気抵抗係数は当時世界トップレベルのCdA値0.29以下を達成しました。
2年連続ベストセラーに輝くなど、Z400FX並みの名車になるはずでしたが、中古市場では不人気者扱い。私の愛車も買取会社に捨て値同然で買い取られてしまいました。チキショー!(小梅太夫調)
メーカー:カワサキ
車両名:GPZ400R
排気量:399cc
エンジン形式:水冷4ストロークDOHC並列4気筒
車重:176 kg
「えーっと、これチャㇼですよね?」 最初に目に飛び込んだのは、自転車にエンジンが付いたような代物。バイク聡明期の車両です。
牧野昌徳さんとバイクとの出会いは中学生の頃。父親が買ったブリヂストンのBSモーターに衝撃を受けたといいます。30代で牧野燃料店を起業し、燃料を配達していたところ、農家の納屋に眠っている年代物のバイクを発見。それらを譲り受けて自ら整備し、気が付けばたくさんのバイクが集まっていたのだとか。まさに「とかち大正二輪館」にはバイク乗りの夢が詰まっているのです。
気になるバイクを深掘り
なんと、1930年代から1950年代にかけて製造・販売されていたハーレーダビットソンの国産モデル「陸王」や、現在は船外機や消防ポンプを生産販売し、かつてはホンダをしのぐトップメーカーだった「トーハツ」の姿も。いずれも貴重なバイク資料です。展示車の中から気になった車両を深掘りしてみました。
バイク黎明期の原動機付き自転車「エバンス」
「エバンス」は、1919(大正8)〜1924(大正13)年にアメリカで生産されていました。展示車両の中では最も古い車両です。自転車にエンジンがついたような外観ですが、まさにその通り! このバイク黎明期のモデルは、自転車にエンジンとタンクをアタッチメントで装着するという形式が主流でした。そのため、サイクルにモーターをプラスした形式なので一般名称もサイクルモーターと呼ばれ、アタッチメントを製造するメーカーもさまざまあったそうです。このモデルはアタッチメントを装着した仕様ですが、車体が付いたコンプリート車両『エバンスパワーサイクル』もありました。
当時は輸入車が中心でしたが、1914(大正3)年に自転車を製造していた宮田製作所が国産初の市販車「アサヒ号」を発売するなど、国産バイクの礎が築かれ始めたのもこの頃でした。その時代にバイクに乗ることは、今ならジェット機で飛び回っているようなもの。どんな人がこのバイクに乗っていたのか想像が膨らみます。
メーカー:サイクルモーターコーポレーション
車両名:エバンス
排気量:119cc
エンジン形式:空冷2ストローク単気筒
車重:不明
前輪を駆動する「ダイハツソレックス」& あの3輪バイクのご先祖様?!「ダイハツハロー」
昭和の時代には、ホンダとスズキ以外にもクルマとバイクを作っている会社が存在していました。「ダイハツ」もその一つ。現存する最古の自動車会社で、1907(明治40)年に創業しました。当時としては珍しい産学連携によってスタートし、日本で最初の国産エンジン「6馬力 吸入ガス発動機」を発明しました。ダイハツと言えば1957(昭和32)年から1972(昭和47)年に発売された「ミゼット」が有名ですが、それより前の1952(昭和27)年に、子会社「ツバサ工業」を設立し、二輪製造を行っていました。
メーカー:ダイハツ
車両名:ソレックス
排気量:49cc
エンジン形式:空冷2ストローク単気筒
車重:30㎏
ダイハツハローは、1974(昭和49)年に販売を開始した50cc三輪スクーターです。イギリス人のウォリス氏が設計、3.5 psを発揮する50cc強制空冷2ストローク単気筒エンジンを搭載していました。価格が高かったことや、バイク販売店ではなく、ダイハツ特約店で販売されるなど販路が狭く、販売台数は伸び悩んだといいます。後にウォリス氏は三輪車の権利をホンダに売却。改良が重ねられ、ジャイロの原型になる「ホンダ・ストリーム」が誕生したと言われています。
メーカー:ダイハツ
車両名:ハロー
排気量:49cc
エンジン形式:空冷2ストローク単気筒
車重:89㎏
鉄の塊のスクーター「富士重工ラビットスーパーフローS601」
2014(平成26)年に社名を「スバル」に改称した富士重工もバイクを製造していました。1917(大正6)年に、中島知久平(元海軍機関大尉)によって設立された民営の飛行機研究所を前身とし、戦後は航空機製造技術を活かして「富士重工業」として再スタートしました。ラビットは富士重工のスクーターブランドで、ラビットスーパーフローS601は、1966(昭和41)年に発売されました。
ラビットスーパーフローS601は、199cc空冷2ストローク単気筒エンジンと新設計片持ユニットスイングを搭載。鉄を多用しているため153㎏と重量級ながら、最高時速は100㎞を達成。販売価格は16万6千円で、当時の大卒初任給が24,900円であることを考えると、かなりの高級車だったことが分かります。
メーカー:ラビット
車両名:スーパーフローS601
排気量:199cc
エンジン形式:空冷2ストローク単気筒
車重:153㎏
都会派ヤング向けのトレンディなニューモデル「ホンダ ズーク」
ホンダズークは、1990年に「新しいスタイルのファッショナブルでシンプルな若者向け原付タウンビークル」として発売されました。当時のプレスニュースを見ると「都会派ヤング向けのトレンディなニューモデル」だそうですが、かなり恥ずかしい感じですね。車名はゴム底の運動靴を意味する「ズック」からだと思いますが、都会派ヤングがスニーカーをズックなんて呼ぶかなぁ。「ズークはこれからの普通です」とも書いてありますが、やはり翌年姿を消してしまいました。
メーカー:ホンダ
車両名:ズーク
排気量:49cc
エンジン形式:空冷2ストローク単気筒
車重:41㎏
レプリカブームの立役者「ホンダNSR250R SP(MC28)&CBR250R(MC19)」
1980年代中期にバイクブームを支えた二枚看板です。「NSR250R SP」は、1993(平成5)年に発売された二輪館の中で最も新しいバイクです。NS250Rのフルモデルチェンジ車として1986(昭和61)年に登場。水冷2ストローク90°V型2気筒、最高出力45馬力(展示モデルは40馬力)を発揮しました。4代目となるこのMC28はNSRの最終型で、スタンダードの他に、乾式多板クラッチや前後サスペンションに減衰力調整機構を装備した「SE」、SEをベースに、マグテックホイールを装着し、フロントサスペンションにニュー・カートリッジタイプを装備した「SP」をラインアップしていました。
NSR250Rは中古車市場で高騰し、今や100万円越えは当たり前。程度が良ければ200万円台のプライスを付けています。一獲千金のチャンスですよ。ガレージで眠っているバイクはありませんか?
メーカー:ホンダ
車両名:NSR250R SP
排気量:249cc
エンジン形式:水冷2ストロークV型2気筒
車重:138㎏
「CBR250R」は、1987(昭和62)~1990(平成2)年まで販売されました。4ストローク水冷DOHC4バルブ並列4気筒で最高出力45馬力を発揮。レッドゾーンはなんと18,000rpmから! 並列4気筒エンジンが発する甲高い咆哮はライダーを虜にしました。なお、現在発売されているMC41型とは別の系譜になります。展示車両は1988(昭和63)年に販売された「MC19」と呼ばれるモデルで、エアクリーナ容量を大型化、キャブレター大口径化などの改良が行われました。NSR250Rとともに、空前のバイクブームを駆け抜けた名車と呼べるでしょう。
メーカー:ホンダ
車両名:CBR250R
排気量:249cc
エンジン形式:水冷4ストロークDOHC並列4気筒
車重:154kg
バイクの進化を目の当たりにできる博物館
自転車からスタートし、スタンダードなオートバイの形からフルカウルに至るプロセスに、「より早く」「より快適に」と進化を求めた技術者の思いが伝わってきました。歴史的希少価値の高い名車をその目で確かめてみませんか。
とかち大正二輪館
住所:北海道帯広市大正本町本通り2丁目18番地1
電話:0155-64-5319(牧野燃料内)
開館時間:9:30〜16:00
4月下旬~10月末まで無休 / 11月~4月下旬 日・祝日休館
入場料:500円