数多あるカスタムスタイルのなかでも鉄板の人気を誇るカフェレーサー。1950年代イギリスのストリートバイクカルチャーに端を発するスタイルが、ハーレー・スポーツスターで再現しようというムーブメントがここ日本で起こっています。カフェレーサーとはなんぞや?を振り返りつつ、ハーレー専門メディアの取材で見てきたなかで飛び抜けて完成度の高かったカフェレーサー・スポーツスター3台をご紹介します。
カフェレーサーとは
カフェレーサーとは、ネイキッドバイクをベースにセパレートハンドル、バックステップ、メガホンマフラーといったレーサーフォルムを模したバイクカスタムスタイルのひとつ。ルーツは第二次世界大戦後の1950年代イギリスと言われ、当時大きなムーブメントとなったバイクレースに若者が熱狂、市販されていたネイキッドバイクをレーサー風にカスタムし、憧れのスタイルを再現しつつ ライダー同士でストリートレースを楽しんだと言われています。
カフェレーサーカルチャーの象徴的存在が、英ロンドンに現存する ACE CAFE LONDON です。この ACE CAFE のようなカフェが1950年代当時のロンドンにはたくさんあり、そこに常設されていたジュークボックスにコインを入れて音楽をかけ、その曲の時間を目安に暗黙の了解で決められたコースをどのぐらいで走ってこれるかを競い合った ––– こんな逸話がカフェレーサーの起源と言われています。
近年再びムーブメントが起こっているカフェレーサーカスタム。セパレートハンドル、バックステップ、メガホンマフラーといったマナーとも言えるカスタムメニューの縛りは薄くなり、バーハンドルであっても「カフェレーサー」と呼ばれる風潮が 特にヨーロッパを中心に広まっています。
ハーレー公式カフェレーサー
ハーレーダビッドソンの歴史のなかで唯一カフェレーサーを名乗ったモデルが、XLCRと呼ばれるスポーツスターです。
1977年のデビュー当初は人気もイマイチでしたが、真っ黒で角ばったボディラインにビキニカウルという組み合わせは、カワサキ Z1-Rに見られる当時の流行スタイルをインスパイアしたもの。近年のカフェレーサーブームでXLCRが再び注目を集めるようになり、今やレアモデルとして高値で取引されるようになっています。
ハーレーダビッドソンでのカフェレーサーカスタムに用いられるベース車両は、大きく分けて2タイプ。リジッドスポーツスター(1986〜2003年)とラバーマウントスポーツスター(2004〜2021年)で、ラバーマウントはリジッドに比べてクルーザー色を強めつつ フレームなど骨格およびボディがマッシブになっており、ナロー(細身)なカフェカスタムについてはリジッドがやりやすいところ。それも創意工夫で驚くようなマシンに仕上げた例もあるので、続いてはスポーツスター・カフェレーサー・カスタム実例3選をご覧ください。
カフェレーサーカスタムスポーツスター3選
ライターとして数多くのカスタム・スポーツスター取材をしてきた私が「これは文句なしにカッコいい」と 独断と偏見で選ぶ完成度の高いカフェレーサー・カスタム・スポーツスターを3台ご紹介します。
#01 スポーツスター XLH883(1995年式)
Instagramでも多くのフォロワーがいらっしゃる nanakon7 さんの愛機で、神戸の有名カスタムショップ「Nice! Motorcycle」が土台を築いたもの。
コックピットからリアエンドにかけての流麗なシルエットにロー&ロングなこのスタイルは Nice! Motorcycle のお家芸。ナローなリジッドスポーツらしさを打ち出しつつ、セパレートハンドルにバックステップというカフェレーサーのマナーとも言うべきパーツチョイスは nanakon7 さんのオリジナリティ。
コックピットまわりはカフェレーサーそのもの。ミスミエンジニアリング製マスターシリンダーがグレードアップを匂わせるパーツとして存在するも、ヘッドライトに埋め込まれた独モトガジェット製クラシックメーターやパンチアウトグリップ、そして絞り込まれたハンドル部分などはマシンとしての進化の証。
Nice! Motorcyle 製フューエルタンクとTTシートが織り成すシルエットにトランプサイクル製2in1メガホンマフラー、そしてバックステップキットが組み合わさって独特のスタイリングを生み出している。
伊ブレンボ製ブレーキキャリパー、チェーンドライブ化、オーリンズ製S36Eと、走りの強化にも抜かりなし。ディテールを見ていくだけでも見どころが多い一台ですが、リジッドスポーツの見どころを最大限に活かしつつカフェレーサーとしての完成度も高めているところが最大の魅力だと思います。
#02 スポーツスター XL1200V セブンティーツー(2014)
ナローなカフェレーサーカスタムを目指す上でハードルが高いラバーマウントスポーツスター。マッシブなイメージが強いベースモデルの印象を感じさせないこの完成車両、さらに驚くべきはベースモデルがチョッパースタイルで人気を博したXL1200V セブンティーツーである点です。
カスタムプランを立てたハーレーダビッドソンシティ中野店の松本店長(当時)に「なぜセブンティーツーを選んだんですか?」と伺ったところ、「1200ccモデルでナローなフロントマスクのスポーツスターがこれしかなかったから」との答えが。なるほど、言われてみれば確かに。それにしても、チョッパーをカフェレーサーにカスタムしようという発想はなかなかにすごい。ビフォー/アフターで見比べたらまるで別物です。
ビキニカウルやシートカウルといったボディパーツは米ローランドサンズデザインを加工装着したもの。そのままボルトオンだと野暮ったかったことから、シルエットにこだわるべく細部を煮詰めたそう。グラフィックはオーナーたっての希望からkgイリスのビンテージカをインスパイアしたものに。
米RSD製の2in1メガホンマフラーにセパレートハンドルキット、トランプ(大阪)のバックステップキットにラウンドウインカーと、スポーツスター御用達ショップのパーツがしっかり取り入れられています。これだけでカフェレーサーとしてのパフォーマンスも高いことが伺えるというもの。
クロームメッキの1200ccエボリューションエンジンをデザインに溶け込ませる手腕もさすがと唸らされるところ。ラバーマウントスポーツスターでカフェレーサーカスタムを目指す人には是非ベンチマークとして欲しい一台です。
#03 スポーツスター XL1200CX ロードスター(2016)
“カフェレーサー”をコンセプトに生み出されたスポーツスター XL1200CX ロードスターをベースに、無駄のない独創的なシルエットを与えた渾身の一台。手がけたのは YOKOHAMA HOT ROD CUSTOM SHOW で2年連続 BEST of Bike の栄冠に輝いた千葉・八街のカスタムショップ SURE SHOT (シュアショット)です。
カスタムビルダー相川拓也さんはサーキット走行も楽しむレーサー。最新の現行モデルへの興味も高く、新旧ハーレーを手がけてきた手腕とセンスを遺憾なく発揮し、開発したのがオリジナルのボディパーツなのです。
ニューカフェレーサーと呼んで差し支えない真新しいボディラインがロードスターに新たな息吹を与えているのが分かるかと思います。リジッドスポーツよりもフレームが太いラバーマウントスポーツだからこそ、このシルエットがしっくりハマったのかもしれません。テールライトはLED製なので、面積は小さくとも視認性に問題はありません。
トランプサイクル製2in1メガホンマフラーにオーリンズ製リザーバータンク付きサスペンション、そしてブレンボ製ブレーキキャリパーで大幅にパフォーマンスアップを図っています。これでホイールをマグネシウム鍛造にしたら、さらに面白いバイクになること間違いなし。
ディテールのビレット感を高めているのはローランドサンズデザイン製パーツ群。その取り入れ方も派手すぎず地味すぎずと、シュアショットとしての完成度を高めるアクセントとしてバランスが取られています。デビュー直後に高い人気を誇ったロードスターのカフェレーサー化の究極系と言って差し支えない一台、こちらもロードスターオーナーに是非注目していただきたいモデルです。
カフェレーサーカスタムにおすすめのベースモデル
数あるスポーツスターのなかでも、よりカフェレーサーカスタムに向いているモデルをご紹介します。
XL883R
ハーレーダビッドソンが圧倒的強さを見せつけたアメリカのフラットトラックレースのチャンピオンモデル「XR750」が開発コンセプトとなった XL883R。ゆえに土の薫りが漂う背景を持つモデルですが、その仕上がりは現代のロードシーンにおいてシティライドにぴったりでもあります。
街乗りという点では 日本人にとって十分とも言える 883cc という排気量で、スポーツライドで必要となる制御性能を高めるべくダブルディスクブレーキが備わっています。アイアン883 やフォーティーエイトと異なり車高・シート高ともに高く、コーナリングではしっかりバンクさせられる仕様。セパレートハンドルやメガホンマフラー、バックステップがどれほど似合うか想像しやすいマシンです。
XL883Rの特徴
・他メーカーのスポーツバイクと遜色ない持ち上がった車体
・ダブルディスクブレーキ
・レーシーなグラフィック
・シティライド向きの排気量883cc
XL1200CX ロードスター
2015年から2019年までと 短命に終わった XL1200CX ロードスター。しかしその人気はスポーツスターモデルのなかでも屈指で、中古車市場でもタマ数が少なく、また価格も高騰しているなど引く手数多なモデルになっています。
カンパニーが”カフェレーサー”をコンセプトに仕上げてきただけあって、ラバーマウントスポーツスターを土台としつつもキャラクターを強めるディテールを数多く兼ね備えています。専用設計のフロント19/リア18インチホイールに初の倒立フロントフォーク、レーシーな雰囲気を高めるバーハンドルとガンファイターシート、もちろんダブルディスクブレーキというフルメニュー仕様の一台。さらに付け加えると、排ガス規制値「ユーロ4」に対応しながら よりエボリューションエンジンの性能を引き出すセッティングとなっているなど、ノーマルのままワインディングを走っても十分楽しめる仕上がりなのです。
カフェレーサースタイルを目指しつつ軽量化してやれば、凶暴なマシンになること間違いなし。普通のネイキッドバイクじゃ物足りなくなった人に試乗してみて欲しいモデルですね。
XL1200CX ロードスターの特徴
・他メーカーのスポーツバイクと遜色ない持ち上がった車体
・ダブルディスクブレーキ
・フロント19/リア18インチのキャストホイール
・高スペックの倒立フロントフォーク
・ガンファイターシートを標準装備
XL1200S
マッシブなラバーマウントスポーツスターとは異なるスタイリッシュさと、Vツインエンジンの鼓動がダイレクトに伝わる荒々しさが人気のリジッドスポーツスター(エヴォスポーツとも呼ばれます)。そのなかでもさらにスポーツライドに振り切ったのがこのXL1200Sです。リザーバー付きリアサスペンションやダブルディスクブレーキ、そしてツインプラグ仕様(1998年以降モデル)と オーソドックスなリジッドスポーツにないスペックでドロップされました。
市場とともに販売拡大されたラバーマウントスポーツ以前のモデルなので、日本に入ってきた台数はラバーマウントほどではなく、また人気モデルであることから中古車市場でもフルノーマルを見つけるのはなかなか難しいでしょう。多少カスタムされていても、カフェレーサーという明確な目的があれば、ラバーマウントスポーツほど予算をかけずにカスタムしていけると思います。よりクラシカルでナローなスタイルを目指したい方にオススメの一台です。
XL1200Sの特徴
・ラバーマウントにはないナローなフォルム
・他メーカーのスポーツバイクと遜色ない持ち上がった車体
・ダブルディスクブレーキ
・リザーバー付きリアサスペンションが標準装備
・1998年以降のモデルはツインプラグ仕様
XL1200R
XL1200CX ロードスターの先代モデル、XL1200R ロードスターも、リジッドスポーツよりも重量アップしたラバーマウントスポーツで 1,202ccという大排気量モデルであることから、どちらかというとダイナファミリー寄りのクルーザー色が強いモデルといえますが、アメリカらしい視点から「スポーツライドを楽しんでほしい」という願いを込めてカンパニーが手がけた一台なのです。
ダブルディスクブレーキと高く持ち上がった車体は、前述の XL883 と共通するところ。初期(2004〜2007年)モデルは XL883R と同じく容量12リットルのスポーツスタータンクが備わり、2008年以降は17リットル近く入るビッグタンクへと移行した XL1200R。シルエット的にはスポーツスタータンクの方がカフェレーサーらしいナロースタイルを描いているので、中古車市場で2007年以前の XL1200R に出会えたらラッキーですね。
XL1200Rの特徴
・他メーカーのスポーツバイクと遜色ない持ち上がった車体
・ダブルディスクブレーキ
・走破性に優れた排気量1,202ccが生み出すパワー
まとめ
スポーツスターのカフェレーサーカスタムを行ううえで分かれ道となるのが、リジッドスポーツかラバーマウントスポーツかというベースモデルのチョイスです。古き良き鼓動やナロースタイルを重視するならリジッドスポーツを、現代のロードシーンでの走破性や性能面を重視するならラバーマウントスポーツという選び方になるかと思います。
そのうえで、それぞれのベース車両でどこまで完成度を高められるか、がポイントとなるところで、ご紹介した3モデルはそれぞれのカフェレーサーカスタムにおけるひとつの回答を指し示すものだと思う次第です。
この記事が、スポーツスター・カフェレーサーのカスタムに挑戦するオーナーの大きな参考となれば幸いです。