KTMのネイキッドスポーツ「DUKEシリーズ」は、今年デビュー30周年を迎えた。
そのDUKEシリーズの中でも最大排気量モデルは「THE BEAST」と呼ばれ、圧倒的な存在感と走りを実現してきた。
そして、そのTHE BEASTが今年モデルチェンジ。搭載されるV型2気筒の「LC8」エンジンはボアアップして排気量を1350ccへと拡大し、「KTM 1390 SUPER DUKE R EVO」へと進化を遂げたのだ。
写真:関野 温
パーツの60%を変更し、最新のEURO5+規制をクリア
KTM 1390 SUPER DUKE R EVOは、これまでのV型2気筒LC8エンジンのボアを108mmから110mmへと拡大し、排気量を1301ccから1350ccへと増した新型エンジンが搭載されているのが大きな変更点だ。最高出力180PSから190PS、最大トルク140Nmから150Nmへとそれぞれ高められつつ、最新のEURO5+規制をクリアしている。
エアクリーナーボックスも新設計され、約10Lの容量を確保。ラムエアシステムもよりダイレクトな空気の流れを実現し、容易なメンテナンス性も両立している。
燃料タンクは容量が1.5L増えて17.5Lとなり、航続距離300kmが現実的となった。タンク形状をわずかに外側に傾斜させることで、ブレーキング時のライディングポジションをキープしやすくなり、足着き性向上にも貢献している。タンクに装着されたスポイラーも新形状で、アグレッシブなイメージを強調している。
そのタンクスポイラー下部に、新たにエアロウイングレットを追加。ダウンフォースが増加して前輪のリフトを軽減し、マシンコントロール性の向上に貢献している。
LEDヘッドライトは小型ながら充分な光量を発揮する。そのヘッドライトを囲むように配置されたデイタイムランニングライトは、周囲の明るさに応じて照度を自動的に調整する。ブレーキランプはウインカーと統合され小型化と軽量化に貢献している。
「低く、強靭で、筋肉質なボディ」をモチーフとした車体は、重量マスが集中した塊感を持ちながらスリムさも両立している。燃料を除いた車重は約200kgで、パワーウエイトレシオ1:1を実現している。
KTM 1390 SUPER DUKE R EVOの足着き性をチェック
シート高は834mmで、身長172cmのライダーがまたがるとカカトが少し浮いた状態となる。上半身が少しだけ前傾するが、ハンドル、シート、ステップの位置に違和感がなく、ライディングポジションは快適。上半身をさらに少し伏せると、フロントに荷重することができ、サスペンションの動きも分かりやすくなる。車体の重心位置を低く感じるので、乗車状態で重さも感じず、つま先立ちでも足着き性に不安はなかった。
アップタイプのバーハンドルは広すぎず、ハンドリング操作も軽快に行なえ、マシンコントロールのしやすさに大きく貢献している。カウルのないDUKEシリーズは、マシン前方の視界も開けている。シートは前後方向に余裕があり、それがライディングポジションの自由度の高さにもなっている。シートは薄手ながらクッション性も確保し、座り心地も良好だ。
最新の電子制御でエンジンとサスペンションの特性を幅広くセッティングできる
5インチTFTダッシュボードには、速度やエンジン回転といったマシン情報を表示するだけではなく、エンジン特性やサスペンションセッティングの変更を確認することもできる。
エンジン特性は「STREET」「SPORT」「RAIN」の3つのモードが標準装備され、さらにオプションで、サーキット走行向けの「TRACK」と、よりきめ細かくセッティングできる「PERFORMANCE」を追加することができる。TRACKモードはリーンアングルと加速度の確認ができ、ラップタイマー機能も使用できる。
フロントはWP製セミアクティブ・テクノロジー(SAT)を採用した電子制御サスペンションを装備。マグネティック・バルブを使用した可変ダンピング機能を持ち、市街地での快適な乗り心地からサーキット走行に適した特性まで幅広く調整できるのが特徴だ。
リヤのWP製APEX SATショックアブソーバーには新たなセンサーを搭載し、ストローク量と加速度の両方を測定。より正確なバルブ作動を実現し、良好な乗り心地とトラクション性能向上に貢献している。
オプションの「SUSPENSION PRO PACKAGE」を使用すると、「TRACK」と「PRO」の2つのサスペンションダンピングモードが追加され、自動レベリングプリロード設定とアンチダイブのオン・オフ機能が追加される。さらに、MotoGPファクトリーマシンRC16からフィードバックされた「ファクトリースタート」も使用可能となる。停止時にリヤショックのプリロードが自動的に減少し、リヤの車高を下げることで後輪に荷重してグリップ力を最大限に発揮させる機能で、直進安定性を向上させ最高のスタートを決められるようになる。
これらのセッティング変更は、ハンドル左側のスイッチを操作することで行なえる。スイッチはグローブのままで操作しやすい形状で、ディスプレイ表示もソフトウェアをアップデートしたことで、少ないクリックでさまざまな機能に素早くアクセスできるようになっている。ハンドル右側はハザード、エンジンスタート/キルスイッチが配置される。
フロントブレーキは4ピストンのBrembo Stylemaモノブロックキャリパーをラジアルマウント。Brembo MSCラジアルブレーキシリンダーを装備し、レバーストロークとレバーレシオを変更できる。スイングアームは片持ち式で高剛性と軽量化を両立している。前後タイヤはミシュランPower GPを標準装備。デュアルコンパウンド技術を採用し、ウェット路面でも安定したグリップ力を発揮する。
モードごとに異なる乗り味となるTHE BEAST。
RAINモードは雨天で安心!
試乗当日は雨。降水量は多くないものの、朝から降り続いていて路面は完全ウェット。
デフォルトのエンジンモード設定は「STREET」で、エンジンはフルパワー190PSとなる。スロットルレスポンスはリニアで、トラクションコントロールとウイリー制御もセットされた状態となっている。
まずはSTREETモードで走り出したが、トラクションコントロールが設定されていることもあり、不意にテールスライドするようなことはなかった。スロットル操作に対するエンジンレスポンスもシャープすぎず、マシンコントロールしきれないという恐怖はなかったが、190PSのフルパワー状態とあって、スロットル操作は慎重になった。
SPORTモードはスロットルレスポンスがシャープになり、トルクとパワーの立ち上がりもクイック。リヤタイヤもある程度のスリップが許容された状態となる。アイドリングから少しスロットルを開けただけでもトルクとパワーをハッキリと体感でき、まさにTHE BEASTのような獰猛さが感じられた。ウエット路面ではマシン挙動がシャープすぎるように感じ、スロットルはほぼ開けることができなかった。
RAINモードは出力が130PSに制限され(それでも充分すぎるほどパワフルだが)、トラクションコントロールも最大限発揮される設定となる。スロットル操作に対するエンジンレスポンスもマイルドになっているが、ウエット路面ではそれがスロットル操作のしやすさに感じられる。標準装備されたミシュランPower GPはウェット路面でも確実なグリップ力を発揮し、前後サスも硬さは感じず、路面の接地感を伝えてくれるので安心感がある。
トラクションコントロールの介入度は高い設定だが、試乗時にはスロットルレスポンスに不自然さは感じず、スムーズに走り続けることができた。ブレーキとクラッチのレバー操作は軽く、ハンドリングも自然でクセがなく、操作性は軽快。雨天で気温も10℃と低かったものの制動力は確実に発揮され、それもマシンコントロールのしやすさとして感じられた。SPORTモードでのフルパワーの走りを試すことはできなかったが、ウェット路面でのRAINモードはマイルドさが扱いやすさとして感じられ、不安のないライディングを楽しめるのが分かった。
フレームは2020年モデルをベースとしているが、最新LC8エンジンの190PSのパワーをしっかりと受け止めつつ、130PSに制限されたRAINモードでも硬さを感じさせないよう剛性と重量バランスが調整されていた。長年に渡って熟成したフレームに、最新のエンジンと電子制御サスを搭載することで、誰もが扱いやすいマイルドさとサーキットでのパワフルかつシャープな走りを両立させている。モード変更で乗り味を大きく変更でき、幅広い楽しみ方をできるのがKTM 1390 SUPER DUKE R EVOのキャラクターとなっている。
全長/全幅/全高 | NA |
装備重量 | 212kg(燃料含む) |
ホイールベース | 1491±15mm |
シート高 | 834mm |
エンジン型式 | 水冷4ストロークDOHC V型2気筒 |
総排気量 | 1350cc |
最高出力 | 140kW(190PS)/10000rpm |
最大トルク | 145Nm/8000rpm |
燃料消費率(WMTCモード値) | NA |
燃料タンク容量 | 約17.5L |
ブレーキ形式 | 前ダブルディスク、後ディスク |
タイヤサイズ(前/後) | 120/70ZR-17、200/55ZR-17 |
ボディカラー | オレンジ、ブラック |
価格 | 269万9000円 |