「GPZ」と聞いて、かつての世界最速マシン「GPZ900R」を思い浮かべる人は少なくないでしょう。名車Z1から続いた空冷エンジンに別れを告げ、小型で高出力な水冷エンジンとコンパクトな車体によって、最高出力115 PSを発揮したスーパースポーツです。エッジの効いたデザインや、ペットネームであるNinjaの呼び名もカッコよく、人気は衰えることを知らず1984年から2000年まで発売されました。
その栄光の影で、日が当たることなく消えていったバイクがあります。当時の最速記録を樹立したものの、なぜか人気ではGPZ900Rを抜き去ることができませんでした。トップになれなかったフラグシップモデル「GPZ1000RX&ZX-10」を紹介します。
写真提供 GPZ1000RX:YABO !様 トップ・ZX-10:けたばを様
ぽっちゃりが魅力的な磯山さやか的マシン「GPZ1000RX」
ライバル各社がレースで激しいバトルを展開する1980年代は、レースの勝敗がバイクの販売を大きく左右する時代。その中でカワサキは1983年にWGP(ロードレース世界選手権)から撤退してしまいます。そして翌年の1984年に発売されたのが「GPZ900R(以下900R)」です。スピードメーターには270㎞/h(実スピードは250㎞/h)の数字が刻まれており、そのポテンシャルの高さは、多くのライダーを驚愕させました。
バイク業界全体を圧巻したGPZ900Rでしたが、カワサキは攻めの姿勢を続けます。1986年にGPZ900Rのエンジンをベースにボア・ストロークをアップして、997ccの排気量で125psを発揮する「GPZ1000RX(以下1000RX)」を発売しました。実質的な後継モデルで、空気抵抗を抑えるウインカー一体型のフル・カウリングと操作性向上のために前後共に16インチホイールを採用。最高速度は260km/hに達し、車両重量250 kgでありながら、0→400m加速 10.6秒をマークする俊足を誇りました。
1000RXのスピードメーターには280km/hの文字が刻まれ、世界最高速マシーンであることを高らかに宣言しています。その一方で引き出し式のバンジーフックや、リアカウル収納型タンデムグリップなど便利な機能も備え「世界最速スポーツツアラー」としてカワサキ・フラッグシップの椅子に座るはず…..。
にもかかわらずGPZ900Rが居座り続けていました。なぜなら1000RXが販売された年に、映画・トップガンが公開され、トム・クルーズがカッコよく乗りこなすシーンが話題になり、不動の人気を確立しました。
戦闘機をイメージしたというGPZ900Rのシャープなデザインに対して、1000RXは、磯山さやかさんのようなどこかポッチャリしたスタイル。磯山さやかと磯遊びをしたいワタシにはたまりませんが、誰もが振り向くタイプではありません。1000RXは「1968オメガトライブ」がデビューした1986年に発売され、「カルロストシキ&オメガトライブ」に改名した1988年に、そっと姿を消しました。
ZXシリーズと一線を画するライダーマン的マシン「ZX-10」
「最速なのに売れない」という現実に驚いたカワサキは、懲りずにさらなる最速を作り出します。それが1988年に発売された「ZX-10」です。現行のZX-10Rとは直系ではなく、仮面ライダーとライダーマンみたいな関係です。900Rから1000RXに受け継がれたエンジンが改良された直系バイクです。最高出力は、1000RXよりも12ps向上して137psを発揮。スピードメーターには300㎞/hの数字が刻まれました。
完全新設計のアルミ製のツインチューブや、エンジンの軽量化により乾燥重量は222kgと、最軽量記録を達成。スピードはノーマルで270km/hをオーバー。0-400mも10秒50を誇り、カワサキの技術が凝縮されていました。今度こそフラッグシップとして輝く予定でしたが…やはりダメでした。翌年にZZRにバトンを渡して姿を消すのでした。
ちなみに、近年のカワサキ車にやたらと付けられている「ZX」は、もとは形式名称でした。一番最初は空冷のGPzシリーズで、1000RXはZX1000A1、ZX-10はZX1000B1です。
もしも「900Rの後継車」という位置づけでなかったら?
巷に溢れている900Rよりも、「1000RX&ZX-10が好き」という人は一定数います。その後、1000RX&ZX-10とコンセプトが変わらないZZR1100がヒットしたのは、900Rの後継車という呪縛から解き離れたからではないでしょうか。当時のカワサキらしさが味わい深いモデルです。ちなみに900Rカラーのニンジャ1000SXの登場は「900R復活の前哨」というウワサが流れていますが、1000RX&ZX-10復活は…ないだろうなぁ。